odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

朴一「「在日コリアン」ってなんでんねん?」(講談社α新書)

 チェスタトンの探偵小説では「見えない人間」というモチーフがある。20世紀前半のイギリスの階級社会では、その階級に属さない人間は「見えない」、存在を認識しないのだ。ラルフ・エリソンの「見えない人間」1952年の小説ではアフリカ系アメリカ人が見えないことにされる(ちなみにエリソン「見えない人間」の原題は「The Invisible Man」で、ウェルズの「透明人間」と同じ題(肌の色が異なることは社会的に見えないことにされるのだ)。

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 さて、日本では単一民族社会であると喧伝されているので、上のような「見えない人間」はいないように思われている。でも、そんなことはなくて、様々なエスニック・マイノリティがいる。しかし、それは政策と社会によって「見えない人間」にされている。その代表が在日外国人。
 タイトルの「「在日コリアン」ってなんでんねん?」は関西風の軽いノリ。そう読めるのは最初の1章だけで、そのあとは植民地朝鮮の人々がいかに抑圧され、差別を受けてきたかの説明になる。1945年前の状況は以下の本を参考。
海野福寿「韓国併合」(岩波新書) 
高崎宗司「植民地朝鮮の日本」(岩波新書) 
吉見義明「従軍慰安婦」(岩波新書) 
高木健一「今なぜ戦後補償か」(講談社現代新書) 
 本書では敗戦後の状況が書かれる。植民地化してから敗戦まで、日本国籍をもっていた朝鮮人は1952年に日本政府によって一方的に国籍をはく奪される。個々の意思を確認してのことではなく、一方的な措置であった。そのために、在日コリアンは国の庇護や支援の対象から外される。在日旧軍人、在日・在韓被爆者が支援されず、国民年金に加入できなかったため無年金であり、障碍者への支援金も減額された。朝鮮学校一条校の指定から外され支援金がだされない(10年代には文科省自治体の支援見直しを要請してもいる)。日常的には、入居や就職の差別がある(なので敗戦からしばらくは自営業になるしかない。1980年代になって資格付きの職業、医師、弁護士などになるものが増える。しかし公務員には国籍条項があるため在日コリアンは正式な公務員になれない)。おそるべきことにこれは21世紀になってもなお続き、本書がかかれた2005年以降、むしろひどくなっている。
 そのような差別の状況が継続しているのは、政府、省庁、自民党、司法、警察、メディア、「評論家」などが率先して、差別の政策と言辞を続けていることだ。本書に収録されている自民党や省庁の答弁や発言には、今日では法務省が作成したヘイトスピーチガイドラインそのままのものがある。ことに石原慎太郎都知事(当時)の発言。この男が東アジア諸国を挑発し続けたことが、今日の日中韓の緊張の原因になっているが、耄碌したとかいう理由で責任を取ろうとしない(豊洲市場建設決定についても)。彼の限らず、1990年以降の自民党議員や省庁責任者の発言がヘイトスピーチ蔓延の原因になっている。


 2005年にはまだ希望があった。でもこの本が新刊であったころに、すでにネットのヘイトスピーチはあった(ときどき2chでみかけた)。在特会のようなレイシストも組織化が進んでいた。その数年後には以下のような惨状になった。
安田浩一「ネットと愛国」(講談社) 2012年
部落解放2013年11月号「「在特会」とヘイトスピーチ」(解放出版社) 2013年
師岡康子「ヘイト・スピーチとは何か」(岩波新書) 2013年