島原の乱を描いているが、その前のことを簡単に確認しておこう。
列島にキリスト教が伝来したのは16世紀半ばと思われる。すでに東南アジアがスペインやポルトガルの植民地になっていて、そこから宣教師が来るようになる。主には九州で布教が行われ、西日本まで広がった。最初は武士や商人、庄屋などの上流層。大名が改宗し洗礼名を名乗るようになると、下層の農民などにも広まる。当初は黙認していたが、秀吉の治世になって禁教になる。wikiでは改宗者が仏教などの既存宗教への攻撃をしたことを理由にしている(自分の妄想では、九州の大名が「南蛮」貿易を独自に開始し、各地に交易や外交を広めたことにあるだろう。信長や秀吉が直接征伐したわけではなく、既存大名が帰順しただけなので、統制下になく独自貿易で富を増やすことへの危機感があったはず)。家康が幕府を開いてからは、九州の大名を統制下におくために、知行地を変えたり、中央から官吏を派遣したりなどした。禁教は強化され、同時に農民などの増税が行われる。従わないものへの暴力は熾烈を極めた(この描写を読みたくないので、本書の再読はずっと伸ばしていたのだ。書かれている暴力や拷問、死罪のやり方は、史上もっとも悪質なものであったと思う。同時代のヨーロッパの異端審問や魔女狩り、20世紀全体主義・軍政のホロコーストやジェノサイドはまだお子様のやり方に見えるのだ。うまい言い方を思いつかない)。
ここから先は評者である俺の妄想になるが、中世の列島は複数の国家が同居する多国家の集合体にみえる。鎌倉の東国政権と京都の朝廷が大きなものであるが、東北と九州は別の国家連合体を作っていた。関が原や大阪城の戦いで江戸幕府が列島全体の支配権を確立する。しかし帰順はしても、東北や九州の連合国家は独自に動き、いつ離反するか恐怖と不信がある。そこで前の戦いを理由に大名を土地から離して地元の権力構造を壊し、中央から官吏を送る。現地の支配は地元の下級武士に任せる。このような植民地支配が行われた。中央から派遣された官吏は地元民を人間と見ないし、地元から抜擢された下級武士は権力の支えが無くなったので、幕府に取り入ろうと苛烈な弾圧を実行する。幕府権力ができてわずか数十年で侍は行政官吏に化した。アーレントの「全体主義の起源」からすると、ヨーロッパの植民地支配体制と差別主義は19世紀に作られたとされるが、列島では16世紀に確立したとみた(おそらく中国の植民地支配のやり方をまねした)。
江戸幕府の「植民地」である九州の辺境で起きた一揆は、幕府からすると反乱であり、戦争である。なので農民他の一揆参加者は人間や幕府の関わり者であるとは認識されず、完全にせん滅することが目的になるのだ。武士同士の戦いである関が原や大阪城にあった敗者への容赦はここにははいる余地はない。そこがジェノサイドが起きた理由。
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2022/10/07 堀田善衛「海鳴りの底から」(新潮文庫)-2 1961年に続く