odd_hatchの読書ノート

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青木和夫「日本の歴史03 奈良の都」(中公文庫) 列島が進んで中国化しようとした時代

 高校の日本史で最初のつまづきになるのは、奈良時代(本書の記述は704-771年)。法律や官位が煩雑になり、徴税や戸籍の仕組みが細かくなり、人名がたくさんでてくる。およそ1200-1300年前のこととなると、現在に引き付けて考えることもできず、それを数か月にわたって、授業で聞かされ、まず使うことのない漢字を覚えるとなると、興味はどんどん失せるのだった(なので、高校の日本史は室町時代の終わりまでを駆け足にして、近世と近代を詳しく勉強したほうがいいと思う)。


 この時代の歴史記述が煩瑣になった理由のひとつは、東大寺正倉院に1万点を超える文書や記録が残されていて、詳しく読み解くほどに、その時代がよくわかったからという。その前の時代には中央集権の仕組みがなかったので記録は残されず、そのあとの時代では記録を保管する熱意がなくなって、現在に残る文書や記録の点数は少ないという。資料が豊富なことで、この時代の政策や官吏の仕組みがよくわかった。
 この本を流し読みにした(その理由は上と同じ)あと、妄想したのは以下のこと。

・7世紀半ばまでの大和朝廷同族経営。属人的な統治を限られた一族の合意でやっていた。そこに、大陸で中央集権的な強国ができ、その影響を受けた隣国が律令と官僚の統治による国家に変貌したのを知る。そこで、国家のシステムを変化させなければならないと思ったグループが大化の改新のクーデターで、天皇を中心にする中央集権国家をつくることにする。で7世紀の後半をかけて、まず組織と人事の仕組み作りをする。

・宮廷の改革が終わったので、今度は仕組みを文書で記録する官僚制に移行する。その際に、規範と基準を明示することになり、強国・唐の仕組みをコピー-ペーストすることにし、大宝律令養老律令という法にまとめる。この法をしっかりと履行することが貴族や官吏の仕事になる。法そのものを全国の郷や里にもれなく伝えるために、一年以上をかけた様子。そのあとも、戸籍を作り、耕作地のリストをつくり、徴税額を決め、無償労働の提供割り当てを決めたりと、緻密な仕事を行っている。

・それができたのは、ひとつは耕地開拓による収高の向上と、もうひとつは天皇の権威の全国への浸透(東北以南と九州の現在の宮崎を除くくらいまで律令制は徹底されていた)。なので、税収が安定し、宮廷の祭祀ほかへの投資が潤沢にできた。東大寺の大仏のような巨大プロジェクト、全国の国分寺建立などのプロジェクトが実行できたのはそういうおかげ。

・さらに妄想が高まると、天皇や宮廷の権威や権力の源泉になるのは、強国やその隣国などからの技術と知識導入。建築、金属製品製造、仏具などの精密機器製造、仏教の祭祀実行などの技術と知識を宮廷が独占していて、地方はそこに依存しないと郷や里の経営ができない事態になっていたのではないか。ああ、律令制を実行するための文書作成も、奈良から派遣された知識人(ことに僧侶)に依存していたはず。

律令制の徹底、遣唐使の派遣、大仏建立を実行し完成する意図を持っていたという点で、この時代の宮廷はとても行動的。

・戸籍情報などから当時の人口を推定していて、全国で500-600万人。そのうち官吏・軍人は1万人。平城京にいる貴族は百数十人、公家は数人。あと天皇家の数十人。たったこれだけの人数が国家経営を行っていた(別の資料によると平城京の人口数万人の半数近くが渡来人や帰化人というから、この「国家」はグローバルに開かれていた)。

・しかし、律令制は数十年で終わりになる。本書を読んで妄想すると、律令制は土地は国家所有でそれを貸し出す仕組み。あまりに税率が高く(ほかの負担も大きい)ので、地方の不満が大きい。そこで土地の私的所有を認めなければならなくなり(それが荘園)、そうすると税収が直接国庫にこないようになり、収入を荘園に依存している官僚が法制を遵守できなくなってくる。で、情実に左右される人治主義の政治が復活するのが平安京に都を移してから。

 というような見方は本書には書かれていない。記述のほとんどが奈良の都とそこに住み皇族や貴族のことであって、地方や庶民のことはよくわからない。もう少しざっくりとした歴史認識で、社会の全体を書いてくれると、自分のような素人にはありがたいのだがなあ。

 

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