odd_hatchの読書ノート

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ロレンス・スターン「トリストラム・シャンディ 上」(岩波文庫)第2巻 出産の準備をするが男たちは別の話に夢中になってばかり

2023/11/20 ロレンス・スターン「トリストラム・シャンディ 上」(岩波文庫)第1巻 トリストラム氏懐胎のシーンから始まるが巻の終わりでも生まれていない 1760年の続き

 

 第2巻は出産準備。誰に取り上げてもらうかで父と母が対立し、陣痛が始まると男性医師を呼ぶものの男たちは話に夢中になってしまう。叔父トウビーは負傷治療の間に築城術に凝り、どんな話題も築城になぞらえてしまう。20世紀後半からの「オタク」の存在を予見するような人物だった。ただこの巻では18世紀の女性差別がそのまま語られるので21世紀にはちょっと読むのがつらい時がある。

 叔父トウビーは「リラブレロ」の曲を歌ったり、口笛を吹いたりする。この音楽とダンスはリンクで。
Lilli Burlero

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第1章 叔父トゥビーが負傷したナミュール攻囲戦の話をしましょう。
(当時、紳士gentlemanの間で攻囲戦、築城術を話題にするのが流行っていたとのこと。18世紀、イギリスは各地で戦争を起こした。小説が書かれたころは、インドの植民地経営が思わしくなく、植民地のアメリカが独立を要求していて、イギリス国内でも容認するか拒否するかで争っていた。)
第2章 叔父トウビーは築城術の用語で混乱していますが、そのことで文句をつけるあなた!、ロックの「人間悟性論」を読んでごらんなさい。この問題には3つの面があって、そのひとつは・・・小間使いが寝間をした場合を考えてください。
第3章 負傷を負ったときのことを説明するために築城術と砲術の本を読んだ叔父トウビーはすっかりはまってしまって、ヨーロッパ中の本を買い集め、喋りまくるようになり・・・。(当時はオタクという概念はない)
第4章 4年間研究に没頭したトウビーは治療に文句を言わなかったが、突如どうにかしろと言いだして、医師も父もびっくり・・・
第5章 そんなことを言い出したのは、叔父トウビーの従僕トリム伍長(戦傷で廃兵)が私がトウビーの言う通りの城を作りましょう、田舎に引っ込む予定で十分な土地があるでしょう、と忠告したから。トウビーはすっかり喜んで夢の実現にあれこれ考えだして・・・
(18世紀のドン・キホーテとサンチョ・パンザ誕生。ああ厄介ごとが巻き起こるな・・・)
第6章 突如場面は変わって母の陣痛。産婆を下男に呼びに行かせ、今に残る父と叔父トウビーが談論・・・
第7章 父が興奮して世の中すべてのものにはふたつずつとり手がついている、なんとなれば、と言ったところにノックの音が。父が言いかけたことは第3巻で語るでしょう
(なに、その伏線・・・)
第8章 下男がスロップ医師を迎えるまであまり時間がかからなかったのにお怒りかもしれない。何しろ医師の家は8マイル先にあるのだし・・・
第9章 というのはスロップ医師は馬に乗って土砂降りの中移動していたからで、勢いよく出ていった下男の馬車とすれ違って、落馬しどろまみれになったのであって・・・
(こんなことに5ページもかける饒舌)
第10章 どろだらけのスロップ医師を見たときの、父と叔父トウビーが考えたこと。
第11章 父は下男にスロップ医師の道具を取りに行けと命じる(に3ページをかける)
第12章 父がカーテンと口にしたらトウビーは築城術用語と思って、とうとうと知識を披露。父は怒り、叔父はなぜそうなるのかわからない。
(蠅を捕まえたトウビーが窓から逃がして「この世の中にはおまえとおれを両方とも入れるだけの広さはたしかにあるはずだ。」という有名なシーン。
第13章 「兄の楽しみは主義からでなくちゃだめです――叔父トウビーが言いました――家庭人としてじゃないのかな、とこれはスロップ医師。――ふん!――父は鼻で笑いました――そんなのは口にする値打などありやしない。」これですべて。
第14章 高速で移動できる帆掛け車について、3人がうんちくをかたりあう。父が財政論をぶとうとしたら
第15章 トリム伍長が入ってきて、本に説教を書いた文書が挟まっているのを見つけ、トウビーと父は朗読するよう命じる。
第16章 トリム伍長は朗読の準備をして・・・
第17章 朗読を聞く前にトリム伍長がとっていた姿勢を紹介しましょう(で詳述すること4ページ)
説教 一行読んだら、トウビーは異端審問所はどういう建物だったのかと尋ね・・・
 (おそらくカソリックの神父が書いた説教。それを父はイギリス国教会信徒として、スロップ医師は財務家として、トウビーは築城家として、トリム伍長は兵士としてちゃちゃをいれる。道徳と良心の説教にとんちんかんにつっこむというギャグ。)
 どうやら説教はヨリックが書いたものらしい。父は返却するつもりだったが、うっかり忘れて捨てられ、ヨリックの手元には返らなかった。しかしのちに倫敦の主教がこの原稿で説教したら評判になり、印刷もされたが、ヨリックの死後のこと。
第18章 スロップ医師がようやく出産の様子を見に行こうかと言いだしたら、妻との協定であんたは補助者ということになっていると父が言う。スロップ医師はパターナリズムを主張。
第19章 父は霊魂の宿るところに新しい考えを持ち、出産時の頭の変形が霊魂に悪影響を及ぼすと妄想して、出産時に使う鉗子を工夫していた。それを私の出産時に使うことを考えていたが、それをスロップ医師に頼もうと考えていた。おかげでトリストラムは鼻なしになってしまったらしい(以上の18世紀半ばの「科学」は21世紀には誤りだし、記述の性差別はひどいしで、今読むときには注意)

「霊魂の宿る場所がデカルトの主張したように脳の松果腺の上だというのは、あやまりだという結論に達していました」

へえ。


 スターン師の同時代人(多少前後はある)を並べてみよう。
アダム・スミス、ヒューム、ホーレス・ウォルポールヴォルテールジャン・ジャック・ルソー、エマニエル・カント、ゲーテスウェーデンボルグ
 前回読んだときは、この同時代性がわからなかったので、本文の異様さにだけ注目する読書だった。彼らの共通点、およびスターン師との共通点を探ろうと思うといろいろ妄想を膨らませることができるのだが、素人読者である俺は18世紀が科学と啓蒙の時代であった(と同時にその反動の神秘主義とゴシックロマンスの時代でもあった)ことをメモするにとどめる。


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2023/11/16 ロレンス・スターン「トリストラム・シャンディ 上」(岩波文庫)第3巻 産婆が腰を抜かし藪医者がトリストラムの鼻をつぶしてしまう 1761年に続く