odd_hatchの読書ノート

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ロレンス・スターン「トリストラム・シャンディ 中」(岩波文庫)第5巻 5歳になったトリストラムは割礼をすることになり、大人たちはおしゃべりし、婉曲表現では意を尽くせない

2023/11/14 ロレンス・スターン「トリストラム・シャンディ 中」(岩波文庫)第4巻 手違いで父が最も嫌った名前が乳児につけられてしまう。 1761年の続き

 

第5巻。「私のために賽を投げた最初の三つの大勝負――私の種つけと鼻と名前と――に、いずれも勝負運にめぐまれ」なかった父に、息子(トリストラムの兄)ボビーの死が告げられる。幼児死亡率の高い18世紀ではあるが肉親の死は痛切。なので、父とその周辺にいる人たちは死を思う。どうも世間からはずれているようにみえるが、まあ気にしない。さて、トリストラムは5歳になった。割礼をどうするかという問題が起こる。そのことをストレートにいうのははしたないので、婉曲に遠回しに隠喩暗喩を使って暗号のような会話をする。父は古今の哲学書を読みふけり、叔父トウビーは築城術に凝り、トリム伍長は軍隊体験にこだわり、ヨリック牧師は神学を語りと、それぞれの関心領域はばらばら。文脈を理解せず単語に反応する人々なのでおのずと会話はとんちんかんなものになる。これも、20世紀半ばになって作られた技法。スターンの先進性。

第スペンサー子爵ジョン閣下に呈す章 「第六巻中のル・フィーヴァーの物語を敢て夫人に献呈する儀にこそ。」さっそく自作の宣伝。
第1章 「れわれは未来永劫に、書いた割ものの嵩だけはどんどん積み上げて行くものなのでしょうか――実質的な中身は一向ふえないのに」
第頬髭のこと~断片章 ナヴァール王国で頬髯が禁句になった話。いずれは鼻も禁句になるかも。
第2章 兄ボビーの死が伝えられた日、父は駅馬車路線図を開いてコンパスで計算していた・・・

(トウビーがもごもご読んでいるのを長ダッシュで表す。)
第3章 兄ボビーの死を聞くにあたり、父は涙を流すでもなく、泣き伏すのでもなく、古今の哲学の書を片端から読み上げたのだった・・・(「――死が一体何だというのだ?(略)われわれが存在するとき――死は存在しないし――死が存在するとき――われわれは存在しないのだ」)
(この哲学は笠井潔「哲学者の密室」でフーデンベルグが語っていた。)
第4章 「ロ‐マの執政官だったコルネリウス・ガルス」は***している時に死んだのだよ。

(慎ましい紳士は賤しい言葉を書きません。伏字をタイポグラフに使う。)
第5章 母が暗闇から出てきて(そうかこの時代照明は蝋燭だけか)、彼らの話が自分のことだと思い込んで聞き耳をたてて・・
第6章 家族は機械のようなところがあって、兄トビーの死を伝える手紙をみたら、父とトリム伍長の雄弁が始まることになって・・・
第7章 その前にボビーの死の知らせは台所のものに伝わり、動揺が広がった。女中のすざなーが喪に服そうといいだし・・・
第8章 ちょっと待って、「小間使とボタン穴についての章というのを、この作の前のほうでお約束し」ていたけど、その二つを並べると不道徳との指摘があったので、前の章を小間使いと緑のガウンと古帽子の章に差し替えさせていただきます。
第9章 トリム伍長の慰め。人はみな草のようなものだ、土のようなものだ。(おお、ブラームスドイツ・レクイエム」と同じ引用)
第10章 戦場で死ぬのは怖くない。でも家ではとても怖い。きっと奥さんと旦那さんは悲しむことだろう。スザナーに言われて「気の毒な中尉さんの話」をすることにして・・・
第11章 「おやおや私はトルコ人でもないのに、私の母親のことをすっかり失念していました」(トルコ人云々は、オスマントルコがヨーロッパに力を発揮しているころで、文化経済的にはトルコが優位だった)
第12章 父はコルネリウスの死の話をしていたが、そこにでた「細君」だけが聞こえて母は自分のことをしゃべっているのだと思い込んだ。で、コルネリウスからソクラテスへヨセフへとは話題はどんどん転がっていき・・・
第13章 ソクラテスの言葉「三人の孤独な子供らもある」を引用したら、母は自分の知らない子があなたにいるのと叫び、父は一人減ったのだと癇癪を起して出ていき・・・
第14章 トウビーはソクラテスの話ですよと訂正したが、結局母と一緒に父を追いかけて、父に説明させようとして・・・
第15章 この章はさしずめ提琴のようです。ボロン、ボン(と英語にしては珍しく擬音がたくさん出てくる)。
第16章 「私のために饗を投げた最初の三つの大勝負――私の種つけと鼻と名前と――に、いずれも勝負運にめぐまれず――残るのは教育というこの一つだけ、というわけで」父は『トリストラム教育方針』を書き始めたのだが、ベエネヴェントーの大司教ジョヴァンニ・デルラ・カーザの筆が遅々と進まなかったのと同じように全くはかばかしく進行せず、最初に書いたものは無用の長物に化してしまった。「父を出し抜いて、父が丹念に日時計の線を描いているのを後に、さっさと先へ進んだあげくが、結局は地下に葬られてしまうというようなことにしかならなかったろうと、そうこの私は確信するものです。」
第17章 トリストラムは5歳。
第18章 スザナーは叔父トウビーの家に転職していて・・・
第19章 叔父トウビーは自分の家を野戦陣地に改造することに熱中して、トリム伍長に銘じては砲を設置させたり、窓を壊したりしていて・・・
第20章 トウビーとトリム伍長はスザナーのことを話し合っていて・・・
第21章 昔フランス軍と戦った時のこと・・・
第22章 叔父トウビーがトリム伍長が負傷した時の話をして・・・
第23章 ヨリック、トウビー、トリム、スザナーの順に並んで父の屋敷にいくことになり・・
第24章 父は無数の奇癖があり、世間一般の人とは違うふうに物事を眺め、違った風に施行するので・・・
第25章 「自分の話す話の、線の上にとどまっている限りは――後へもどったり霞た先へ進んだりはすきなだけやってよろしい――それは脱線とは認めないということになっている」という言い訳の章
第26章 椿事に見舞われた母が悲鳴をあげたとき、屋敷の下男下女は事態を知っていて(で父の『トリストラム教育方針』のひとつの章は私が書いたのだと雑談)
第27章 母は何の薬草が必要なのかと父に問い、本を読んでいた父はスロップ医師を呼べと言い・・・
第28章 遠回しにトリストラムの割礼をどうするかを議論。トリム伍長が朗読を始めて・・・
第29章 騎士物語を朗読したら、みながあきれるところを父が異論をだして・・・
第30章 『トリストラム教育方針』を一つ二つ読み上げることにし・・・
第31章 父親とその子の間に存在する自然な関係の基礎を明らかにしようと・・・
第32章 トリムが教義問答を暗唱し、「汝の父母を敬え」とは毎日1ペニー半の小遣いを与えることと答え・・・
第33章 父は健康が大事であることを証明し(ちなみに当時は体内の熱気と水分の主導権争いで健康が決まると考えていたらしい)・・・
第34章 ヒポクラテスとベーコン卿の健康法を非難し・・・
第35章 ヴェルラムのベーコン卿の健康法は体内の精気と対外の空気をどうするかであって・・・父は激しく非難し・・・
第36章 アリストテレスの根源的熱気と根源的水分の主導権争い説を擁護し・・・
第37章 叔父トウビーはトリム伍長とリメリックの戦いの話をはじめ・・・
第38章 そこでは長雨と高熱と渇きで苦しめられたが、酒のおかげで助かった・・・
第39章 スロップ医師が入ってきて、問題は包茎なんでしょ・・・
第40章 トリム伍長は根源的水分とは溝の水で、根源的熱気はブランデーであるといい・・・
第41章 スロップ医師がでていったので、父は『トリストラム教育方針』を読み上げることにし・・・
第42章 父の朗読にヨリック医師が茶々を入れ・・・
第43章 トリムは「補助部隊」のことをしゃべり、父は「補助動詞」のことをいい、トリム伍長が「必要であれば白熊の話もできる」というと、今まで見たことがなく今後もみることのない白熊を見る価値はあるのか、と父はなやむ。


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2023/11/10 ロレンス・スターン「トリストラム・シャンディ 中」(岩波文庫)第6巻 手術になったがまたトラブル。白紙ページ、二人称、図形、伏字に使用などスターン師は文学実験にいそしむ(いや読者サービスなのだ) 1762年に続く