2023/11/17 ロレンス・スターン「トリストラム・シャンディ 上」(岩波文庫)第2巻 出産の準備をするが男たちは別の話に夢中になってばかり 1760年の続き
第3巻は引き続き出産前。産気ついたが産婆が腰を抜かしたので、スロップ医師がいやいやながら出産を手伝うことになる(そのまえに道具をぶちまけるドタバタがある)。医師の使った鉗子は私(トリストラム)の鼻をつぶし、父は動転してしまう。上のようにトウビーはオタクぶりを示すが、著者(トリストラム)もそうで書きつけたひとつの言葉や会話に反応して、連想をひろげ古典のうんちくを語り、同時代の書き物の引用を始めるのである。父やトリストラムは鼻が小さいことを気に病むのであるが、これはゲルマン系ならではの悩みだろう。東アジア系なら鼻の大きさをこだわることはなさそうだし、小さいほうが好まれるのではないかな(つまり美醜の基準は土地それぞれ)。
第1章 スロップ医師に向かってトウビーが「ランダース遠征のときどれほど大軍だったか」を話し始め、それが4分にも及んだものだから・・
第2章 トウビーの長話を父が引き取ろうとして鬘を取りハンカチで髪を拭こうとしたが、実にこれ失礼きわまることで・・・
第3章 というのも体をよじる姿がトウビーに負傷時のことを思い出させたわけで・・・
第4章 私が伝えたいのは胴衣はほころびるということで・・・
(トウビーの有名なことば。うるさく飛び回る蠅を捕まえて「さっさと飛んで行くがよい--おれがおまえを傷つける必要がどこにあろう?この世の中にはおまえとおれを両方とも入れるだけの広さはたしかにあるはずだ」)
第5章 ポケットに手を入れた父は抜けなくなったので顔をまっかにしてしまい・・・
(悪魔が呪縛を解き放たれた様子は「アヴィゾン編曲のスカーラッティの第六協奏曲」を聞くよう、とあるがスカルラッティのことだろう。スカルラッティにはアレサンドロとドメニコの二人がいるが、たぶんアレサンドロの合奏協奏曲第6番ホ長調ではないかと推測)
Avison/Scarlatti - Concerto Grosso No. 6 in D - Mov. 1&2/4(第3楽章は欠)
第6章 父「この世に生まれ来る道中で不幸にあってはいけない。でも昔の人は健康に生まれたらそのあとはほったらかしにしたものだ」
第7章 スロップ医師の道具を下男に取りにいかせたら、途中でこぼれ落ちないように口はしめたがなかがゆるゆるだったので、医療用具ががちゃがちゃ音を立てていた。スロップ医師激怒。
第8章 下男があまりに固く紐を結んだものだから、医師はほどくのに悪戦苦闘・・・
第9章 陣痛で苦しんでいるというのにとスロップ医師は自分の置かれた状況を思い出すと・・・
第10章 医師はナイフで結び目を切ろうとしたら親指を切ってしまって悪態をつく。そんふうにいうもんじゃないと父はたしなめ、カソリック説教論集をだして読み始める・・・ (こんなときにそれか)
第11章 父が読む宗門破門の説教を聞きながら、医師は悪態をつき、トウビーは口笛を吹いて・・・
第12章 イギリス人(イングランド人)の悪態は司教アーナルフの説教集にすべて網羅されている・・・
第13章 母の寝室の扉があいてつたえられるところには、母は失神しそうだわ、産婆は転んでおしりにあざができたわ、医師の道具は壊れているわ、親指は怪我しているわ・・・
第14章 「当代、雄弁ということが次第に衰えて、屋内屋外を問わず今ではあまり物の用に立っていないのは、一にかかって今の世に短い上衣ばかりが用いられ、むかしのようなだん袋形のズボンははやらなくなったのに起因することがはっきりとわかるのです。今のようなズボンでは、奥さま、とり出し甲斐のあるほどのものを下にかくしておくわけにゆかないじゃありませんか。」(奥様は困惑したのか、哄笑したのか)
第15章 スロップ医師が袋から鉗子を出したら、注射針もいっしょにでてしまい・・・
第16章 トウビーが驚いたので、医師は鉗子で胎児を出すことができるのだと自慢すると・・・
第17章 頭と尻を間違えなければ問題ないと医師はいい・・・
第18章 そういえば医師が来てから2時間10分経ったがもう十年もたったように思えると父が言うと、叔父トウビーはそんなことはないというので、父はロックを使って時間論を解説するがトウビーにはちんぷんかんぷん・・・
第19章 父の議論はみごとなものになるはずだったのに、父が止めてしまったのは、残念至極・・・
第20章 医師は母の部屋で仕事をし、父とトウビーはねむりこけてしまったので、ちょうどいいタイミングだから・・・
作者自序 自序を書くことにしよう。ということで「機知と思慮分別」について(の益もないよもやまごと)
第21章 父が気にかけていたのは、この家の弱点である蝶番。三滴でも油をさしておけば、こんなことにはならなかったのに・・・
第22章 トリム伍長が扉を開けるとひどい音を立てたので、父は目を覚ましておかんむり。そのうえ大事にしている乗馬用長靴をいたずらされてしまった。トウビーが代金を払うといったので、ようやく父は落ち着いて・・・
第23章 二階で何をしているのかと父。橋を架けておいでですとトリム。ここでトウビーは「橋」を取り違えたのですが、なぜそうなったのかお話ししましょう・・・
第24章 それは1713年のダンケルク破壊のあとのこと、トウビーが敷地内に「橋」をトリム伍長に銘じてつくらせていたころで(トウビーの吸った煙草で父がむせるというギャグが入る)・・・
ダンケルク破壊はリンクを参照。
第25章 跳ね橋にしようと思っていたが、父が口を出したりして遅々として進まず・・・
第26章 父はトウビーが戦争関係のことで頭がいっぱいになっているのを心配して(ここは小説の現在。その前の章は過去)
第27章 トリム伍長は、いや橋というのはスロップ医師が赤ん坊の鼻にかけるものだといい・・・
第28章 いやこのことを思い出すのは私にも苦痛なことで(トリストラムが文章を書いている現在。いろいろな時間を行ったり来たり)
第29章 スロップ医師がやろうとしていることが分かって、父は動転し、寝室で場たり、と倒れてしまい・・・
第30章 父は打ちひしがれていますが、30分ほどそのままにしておきましょう・・・
第31章 私の鼻はないと言いますが、私は鼻を次のように定義します・・・
(「厳密な道徳と綿密な推理を必要とする著書の場合、今私が執筆しているこの本などがさしあたりそれですが、――上にいったような怠慢は到底ゆるせないことです。」って、それをいいますか)
第32章 「私の曾祖父の鼻と申し霞すのは、どう見てもかのパンタグルーエルが発見したというアンナザンの島に住む老若男女ことごとくの鼻にそっくりなのです」。「パンタグリュエル@ラブレー」のことですな。
第33章 「曾祖父から三代にわたって、鼻は大なるをもって尊しとするこの教義は、わが一門に次第に根をおろしつつあった」ので、父は私の鼻に動転したわけで・・・
第34章 父は他人の意見を集めることに熱心で(そこでローマやギリシャ時代の碩学の話がえんえんと)、鼻に関する本や論文を片端から集めていて・・・
第35章 ことにブリュスカンピーユ(だれそれ?)の本を見つけたときは喜々としてまして・・・
第36章 他にもたくさんの著作をもっておりまして、その混沌ときたらマーブル模様そのもので
(次の章との間にマーブル模様が2ページ印刷されている。)
(グレースケールでPDFスキャンしたので、細部がつぶれてしまいました。)
第37章 「学のある人が何の意味もなくただ鼻の大きさを対話の材料にするはずはない――わしはその神秘的な寓意的な意味を研究してみる」ということでエラスムスなどを読みふけり・・・
第38章 スラウケンベルギウス、プリニッツ、スクロデリュス、アンブローズ・パレ諸氏の鼻の学説を紹介。
第39章 この学説を叔父トウビーに知らしめるために、父はラテン語を翻訳もするのですが、そのときにはトウビーのことはいっさい頭から抜け落ちていて・・・
第40章 でも父のような大論理学者はトウビーが一生懸命理解しようとしているのだと見えたのだけど・・・
第41章 やっぱりトウビーは城のことを考えていたので、簡単極まる質問をして父を憤激させ・・・
第42章 落ち着いた父はスラウケンベルギウスの本を持ってきて、なのでドイツ人の書いた物語を一つご紹介しましょう。
この小説は近世なので、ふだんよく読む小説が暗黙の背景にしている近代がない。例えば、個室のようなプライヴェート空間であり、上下水道やガスなどの公共インフラであり、汽車や自転車などの移動手段である。そうすると、本書に夜の描写がないのはガス灯や電燈がないので彼らは早寝するしかないからであり、食事のシーンがないのは流通や保管のシステムがないので同じものを食べていたからであり、商品を買うシーンがないのは店舗に物を並べて売る商店が田舎にはないからであり、語り手のフランス旅行が大々的に語られるのは長期間の旅はとても金がかかり命を失いかねない危険すらあったからである。
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2023/11/14 ロレンス・スターン「トリストラム・シャンディ 中」(岩波文庫)第4巻 手違いで父が最も嫌った名前が乳児につけられてしまう。 1761年に続く