odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

白井聡「国体論」(集英社新書) 戦後の対米従属構造は対象を変えた国体。先行研究をよせあつめた歴史法則主義。

 本書(2018年初出)は前著「永続敗戦論」の続きであり、補完であるらしい。「永続敗戦論」は未読だが、本書第1章から推測すると以下の通り。大日本帝国が敗戦を公布したので、アメリカは占領して戦争を起こさないように体制を変えた。そのやり方は天皇を統合の中心とする君主制とする(国体の護持)が、天皇に権力を持たせない平和と民主制(国体の破壊)を同時にもたせて、対米従属構造をつくることであった。敗戦国である状態を継続する政策で、これが著者のいう「永続敗戦レジーム」。21世紀になってこのレジームは「保守」と宗教団体によって崩されようとしている。彼ら「保守」はアメリカを精神的権威としていて、戦後民主主義を救出しようとする天皇を邪魔に感じている。

第1章 「お言葉」は何を語ったのか ・・・ 2016年8月8日の平成天皇の「お言葉」を検討する。安倍政権になってから象徴天皇制を貶める提言が政府やその近辺からでてきた(天皇は宮廷祭儀だけやれ、子どもを産むのが最重要など)。彼は戦後民主主義を救出しようとし、象徴天皇制における天皇の役割を行為(動く・祈る)によって国民の統合とした。高齢などで行為ができなくなったとき、代替者を立てるのは天皇の役割にふさわしくない。なので、生前退位する。保守はこのような天皇の生き方を否定するもの。

第2章 国体は二度死ぬ ・・・ 2018年は平成の終わりであり、維新から敗戦までの戦前と敗戦から2018年までの戦後が同じになった象徴的な年。戦後の経済成長という民族再起物語が終わり、冷戦が終結してアメリカが日本を庇護する必要がなくなり(収奪に代わる)、アジアで一番目の子分という地位が終わる。戦後の対米従属は破綻したのに、保守政権は対米従属を強化しようとしている。そこで著者は日本の近現代史を国体の歴史としてみることを提唱。戦後は天皇制を廃棄したはずだが、実際はポツダム宣言受諾と講和条約天皇の地位が保存され、60年の安保条約で天皇の地位が維持されたとみる(安保条約締結には共産主義に恐怖する天皇によって締結が促進されたという。彼の共産主義恐怖はロシアやフランスの革命で皇帝と一族が処刑されたことに由来するのだろう)。
 そこで日本の近現代史を形式化する。まず戦前・戦後を近代前期と近代後期にわけ、国体の変遷が同じような過程(形成→発展と変貌→崩壊と死)を経ていて、前期も後期も繰り返しているとみる。
近代前期は天皇と国民の関係で、天皇の国民(明治期)→天皇なき国民(大正期)→国民の天皇(昭和期、敗戦まで)。これは天皇崇拝と近代化が啓蒙から内面化し、全体主義になって崩壊すると俺は見た。
近代後期はアメリカ(天皇アメリカに従属して一体化?)と国民の関係で、アメリカの国民(敗戦から1970年まで)→アメリカなき国民(1970~1990)→国民のアメリカ(1990以降)となる。対米従属体制が形成され発展変貌し自己目的化するまで。
(戦後の受動的能動的な対米従属を天皇崇拝の制度と一緒にしてよいのかという疑問。この章では「アメリカは日本を愛している」という妄想が啓蒙によって内面化したと説明される。政策からメディアまでを動員した官製の国民運動があったのだろう。)

 

 以下の章では、形成・発展と変貌・崩壊と死の3過程を近代前半と後半を交互に参照して、類似・相似性を見る。
第3章 近代国家の建設と国体の誕生(戦前レジーム:形成期)/第4章 菊と星条旗の結合―「戦後の国体」の起源(戦後レジーム:形成期1)/第5章 国体護持の政治神学(戦後レジーム:形成期2)/第6章 「理想の時代」とその蹉跌(戦後レジーム:形成期3)/第7章 国体の不可視化から崩壊へ(戦前レジーム:相対的安定期~崩壊期)/第8章 「日本のアメリカ」―「戦後の国体」の終着点(戦後レジーム:相対的安定期~崩壊期)/終章 国体の幻想とその力

 皇国イデオロギーによる支配や全体主義国家という見方で近現代史をみるのは他の論者のほうが詳しいので、ここでは割愛。ものすごい勢いで読み、ときにページをすっ飛ばしたのは、他の人が指摘していることの寄せ集めでできていて一貫したストーリーをつくっていないこと。史実をつまみぐいしているので、全体が見えてこないのだ。それに、歴史をあるルールや法則に則っているというみかたに納得いかないので(エドワード・H・カー「歴史とは何か」岩波新書)。日本の近現代史を作ってきた人たちは多数いて世代変わりもしているのに、あるイデオロギーや制度の思惑で決められているとは思えないし。

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 というわけで、若い著者(当時41歳)の力作なのだろうけど、俺には不要でした。何かあると期待したのは浅はかだったなあ、と反省。

 

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