odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

H.S.サンテッスン「密室殺人傑作選」(ハヤカワポケットミステリ) 人の出入りが不可能な状況で起きた犯罪に魅了される人々のための好アンソロジー。

 収録作品を備忘のために記しておく。◆は印象深かったもの。どちらかというとパロディ風のほうを好んだらしい。
ある密室(ジョン・ディクスン・カー) 
クリスマスと人形(エラリイ・クイーン)
世に不可能事なし(クレイトン・ロースン)
うぶな心が張り裂ける(クレイグ・ライス)
犬のお告げ(G.K.チェスタートン)
囚人が友を求めるとき(モリス・ハーシュマン)◆
ドゥームドーフの謎(メルヴィル・デヴィッスン・ポースト)
ジョン・ディクスン・カーを読んだ男(ウィリアム・ブルテン)◆
長い墜落(エドワード・D.ホック)
時の網(ミリアム・アレン・ディフォード)
執行猶予(ローレンス・G.ブロックマン
たばこの煙の充満する部屋(アンソニイ・バウチャー)
海児魂(ジョゼフ・カミングズ)◆
北イタリア物語(トマス・フラナガン)
 15年ぶりくらいの再読かな。見事なくらいにすべて忘れていた。密室といっても六方を壁に囲まれた状況でおきた事件だけではないのだよ、人の出入りが不可能な状況であれば、それも広義の密室ととらえるんだ、という立場で編まれたアンソロジーかな。密室というと、いつまでたってもだれかが出てこないドアを叩いても返事がない、そこでむりやりドアや窓を押し破って入室、死体を発見して大騒ぎ、というシーンがお約束になるのだが、ここで選ばれた作品にそういうシーンが再現されているのはあまりなかったな(そうだっけ? 記憶がすでに曖昧)。
 大岡昇平「俘虜記」を読んでいるのだが、レイテ島の俘虜収容所にいたとき、通訳として米軍と折衝していた彼は暇にあかせて、探偵小説(もちろんペンギンブックスあたりの米軍用ペーパーバックス)を読み明かしていた。その結論は、探偵小説というのは作者のぺてん、読者の知的怠惰であるということ。互いに費やされる知的エネルギーをほかのことに向けたらどうか、という。このアンソロジーを見ると、たしかに知的エネルギーは無駄に費やされているねぇ、作者は同じような趣向をいろいろこねくり回しているし、われわれ読者は騙されて続けてそのことに飽きないのだし。まあ、蕩尽も文明のあかしではあるのだがね。大岡の主張に共感と反発を覚えつつ、記す。