odd_hatchの読書ノート

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オットー・ペンズラー編「魔術ミステリ傑作選」(創元推理文庫)

 絶賛、絶版中なのか。所有しているのは初版でしおりひも付き(一時期の創元推理文庫は、初版のみしおり紐を付けていた)。収録作は以下のとおり。

1 この世の外から (クレイトン・ロースン)
2 スドゥーの邸で (ラドヤード・キプリング) ・・「ジャングルブック」の作者
3 登りつめれば (ジョン・コリアー)
4 新透明人間 (カーター・ディクスン)
5 盲人の道楽 (フレデリック・I・アンダスン)
6 時の主 (ラファエル・サバチニ)・・「スカラムーシュ」の作者
7 パパ・ベンジャミン (ウィリアム・アイリッシュ
8 ジュリエットと奇術師 (マニュエル・ペイロウ)
9 気違い魔術師 (マクスウェル・グラント)
10 パリの一夜 (ウォルター・B・ギブソン
11 影 (ベン・ヘクト
12 決断の時 (スタンリー・エリン)
13 抜く手も見せず (E・S・ガードナー)
 合理的な解決を見せない作品もちらほら(2、3、6、11)。これらは超科学やオカルトを肯定的に扱っている。時代がそうだったといえば(作者は19世紀生まれで、作品も20世紀前半に書かれたもの)、まあ仕方ないだろう。とはいえ、こういう傾向の作品は楽しめなかった。
 このアンソロジー、自分には低調な作品が多かったのだが、ただ一編エリンの「決断の時」が大傑作だった。ポオを思わせる重厚で緻密な文体、いわくありげな雰囲気、次第に深まっていくサスペンス、唐突で印象的な結末(リドルストーリーなので、主人公の決断は書かれていない、それは読者が考えることになっている)、すべての印象的な人物描写。それこそポオの「アモンティリアードの樽」と比較できるような作品。素晴らしかった。
 アイリッシュの「パパ・ベンジャミン」はブードゥー教を扱っているが、そこに描かれた黒人やプエルトリカンへの差別意識はすさまじい。当時の状況や人権意識をそのまま描いていて、作者にはもちろん差別意識などないだろう。しかし、当時の「普通」が問題なのだから。きわめて後味の悪い作品だった。