odd_hatchの読書ノート

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江戸川乱歩「世界短編傑作集 2」(創元推理文庫)

ルブラン「赤い絹の肩かけ」1907 ・・・ おかしな挙動を示す二人つれ。尾行したガニマール警部はリュパンに不思議な事件の解決を持ちかけられる。果たして、彼のいうとおりに犯人を上げることができたが、決定的な証拠がない。そこで、ガニマール警部はリュパンと対決することにする。奇妙な証拠から真犯人とその犯罪意図を見出すリュパンの推理力。というより最後のガニマール警部を出し抜くリュパンのコン・ゲームを楽しむことになる。

グロルラー「奇妙な跡」1907 ・・・ 雨上がりの路上で見つかった絞殺死体。おかしなことに犯人の足跡が見つからない。かつて小学生向けミステリ謎解き本にも紹介された古典的なトリックがここにあった。ハンガリーの作家。カフカの世界にホームズが登場するというのが面白いところ。
参考: 2017/12/13 バルドゥイン・グロルラー「探偵ダゴベルトの功績と冒険」(創元推理文庫) 

ポースト「ズームドルフ事件」1911 ・・・ 江戸川乱歩とどちらが先に発想したかを争った(日本だけのことだろうが)一編。パタリロにも引用された、やはり古典的なトリックがここにある。さすがに現代(当時の)を舞台にするには、骨董的な品物を使わなければならなかったので、時代もので使うことにした、のかな。見方を変えると、歴史ミステリの端緒ともいえる。不意に思い出したが、これがかかれる前の19世紀末のパルプ雑誌には、西部劇小説がたくさん書かれていたのだった。その影響も入れておかないといけないか。

フリーマン「オスカー・ブロズキー事件」1912 ・・・ 倒叙推理の短編。前半は愚かな殺人犯の突発的な殺人と証拠隠滅。後半は死体発見にかかわったソーンダイク博士の捜査の模様。死体にかかわるわずかな手がかり(口に残ったクッキーの粉、死体発見現場で見つかっためがねのレンズ、紙巻タバコの粉にマッチの軸など)から推測を重ね、仮設を検証しながら、真相にたどり着いていく。その模様はまさに科学的な実証主義の産物。この時代(に限らないが)によくあるオカルトや怪奇、ニセ科学の出番はない。ということで、健全な科学推奨の物語。そういう教訓を除くと、とても単調な物語で(昔の中学生は興奮したが)、後の作家はもっとひねらなければならない。傑作はブラッドベリかな。同じように殺人を犯した男。指紋が発見されるのを恐れて、部屋中を掃除しぴかぴかに磨いた男の話(あまりに熱中したために、部屋を出たとたんに逮捕、という落ちだったっけ?)。あと、列車による轢殺というのは第2次大戦前の小説にはよくあったな。大阪圭吉の「とむらい機関車」とか(それだけ?)。

ホワイトチャーチ「ギルバート・マレル卿の絵」1912 ・・・ 貨車の途中の一両の車両が盗難にあう。途中にあるのは無人の駅と使われていない引込み線だけ。どうやって連結された車両のあいだにある一両だけを盗むことができたか? これも小学生向けミステリ本にでてくる古典的なトリック。1950年までは列車は、無灯火の線路の上で無人のところを走っていたのだった。そういう時代があった。だから下山事件そのたの国鉄の事故も起こりえて、迷宮になってしまったのだった。そのような記憶がないと、リアリティを感じないかもしれない。もうすこし長くして、途方にくれる人々の描写をいれるとよかったな。短すぎる。

ベントリー「好打」1913 ・・・ ゴルフコースで見つかった死体。彼は最高のショットのあと、死亡した。それをゴルフクラブにいたトレントが推理する。誰からも見える場所だが、時間によってはだれにも見えない人。そういう設定と、チェスタトンの「見えない人」トリックの変形。

ブラマ「ブルックベンド荘の悲劇」1914 ・・・ 盲目の探偵、マクス・カラダスの元に、姉が夫に殺害されるのではないかとある女性が相談にきた。夫婦の住む家を偵察すると、ちかくには鉄道が走っていて、近くの樹木に凧がかかっている。さて、夫は何をたくらんでいるのか。1914年のロンドン近郊にはすでに電気が通っていたことを知ることができる。またカラドスは自家用車を持っているが、依頼者は徒歩で彼の事務所にくる。まだフォードの安い自動車が大衆に普及していなくて、官庁か資産家しか持たなかった時代の様子がわかる。

クロフツ「急行列車内の謎」1920 ・・・ ロンドンから北に向かう夜行寝台列車。その特等コンパートメントで、深夜、新婚夫婦が射殺された。コンパートメントのドアは外から楔で閉ざされていて、途中停車駅のない状況で発見されたので、全速疾走する列車から脱出することもできない。いったい誰が、どうやって? こういう二重の密室という設定が面白い。しかしながら、解決のあっけなさと叙述の単調さのおかげで、魅力的な謎が退屈な物語になった。

コール夫妻「窓のふくろう」1923 ・・・ ロンドン郊外の一軒家。一人で住む偏屈そうな銀行家の老人が電話室で射殺されたのが見つかった。死亡時刻当時、家には他の人はいない。偶然、通りかかった名探偵は、屋敷の横にふくろうがいるのをみつけたことから事件を解決する。この時代に電話を個人所有しているひとがいた。やはり資産家だった。


 全体を通しての思いついたこと。
・探偵小説というのは、ブルジョアの生活の中から生まれてきたもので、かつ資本主義や消費財が普及していく様子を描いているのだなあ、ということ。ここに登場する人たちのいずれも、ブルジョアか名士であり、そこに起こる事件を描いている。ここは日本とは違っていて、探偵小説は江戸川乱歩横溝正史に代表される「高等遊民」の夢として現れた。だから1920年代の本邦の自作ものはどれも退屈した貧民か、根無し草のモダンな青年を描いている。
・警察による合理的、科学的な捜査方法が描かれている。もちろんガボリエやドストエフスキーらの前世紀からそんな描写はあったのだが、ここでのほとんどが警察捜査を描いている。ということは、それが新しかった。過去の聞き込みや威圧による捜査ではなく、物的証拠を集め、それから類推されることを仮説にし、さらに実証していくやり方が珍しく、かつ教育効果のあるもので、魅力的だったということになる。
・最初に読んだのは高校生。書かれてから50年後のこと。まだ当時の生活様式を漠然と把握できたし、テクノロジーの変化も大きなものではなかったので、これらの作品にリアリティを感じることができた。それから30年がすぎたら、とても古めかしかった。いまの若い人には受け入れがたいものであるのだろうなあ。(自分にしても、第1集のほうが面白くて、第2集を読むのはつらかった。)

2010/11/04 江戸川乱歩「世界短編傑作集 1」(創元推理文庫)
2010/11/06 江戸川乱歩「世界短編傑作集 3」(創元推理文庫)
2010/11/07 江戸川乱歩「世界短編傑作集 4」(創元推理文庫)
2010/11/08 江戸川乱歩「世界短編傑作集 5」(創元推理文庫)