odd_hatchの読書ノート

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モーリス・ルブラン「リュパンの告白」(創元推理文庫)

リュパンは長編のみならず数々の短編でも活躍して、豊富なトリックがミステリ・ファンを楽しませてくれる。本書はリュパン・シリーズの中でも最高の評価を受けている短編集であり、名作「赤い絹の肩掛け」を含め、「太陽の戯れ」「結婚の指輪」等全8編を収録している。アクションの痛快さと謎ときの本格トリックが融合した傑作ぞろいである。解説=中島河太郎
リュパンの告白 - モーリス・ルブラン/井上勇 訳|東京創元社

「太陽の戯れ」 ・・・ リュパンと「私」がくつろいでいると、太陽光を反射しているのが見えた。それは暗号のようで、解読したリュパンはその家を訪れ、死体を発見する。下女と怪しい医師の話から、ある男爵夫人が失踪していることがわかった。推理に必要な事柄が後出し。まあいいや、リュパンと犯人の格闘シーンがあるから。リュパンにこれだけ対抗した犯人は少ない。
「結婚の指輪」 ・・・ 男爵夫人の目の前で息子が誘拐される。誘拐したのは男爵その人で、彼は夫人の不貞の証拠を見つけ、莫大な財産をえて離婚するつもりであった。夫人は6年間に会った男の名刺を手紙に入れて窓から捨てる。ヴァルモン=リュパンが登場し、夫人の過去の成就しなかった恋愛を知り、男爵にいっぱい食わせるための仕掛けを用意する。問題は夫人の指から抜けなくなった指輪だ。そこには不貞の相手の名前が彫ってあるはず。トリックはある。まあ、それをトリックというならば。
「影の合図」 ・・・ 「私」が買ってきた絵には「15.4.2」という記号があり、奇妙なことに同じ絵を隣人の女が持っている(笑)。あとをつけるとその女を係累が4月15日に集まって、何事かしている。リュパンはそこで行われている話を聞き、100年前のフランス革命時にある貴族が宝を隠していた、それを暗号にした絵を残していることを知る。その後百年、彼ら一族は謎を解けなかったが、リュパンはあっさりと解いてしまった。まあ、革命時には西暦とは別の暦が使われていたことを知らないと謎を解くのは難しいな。
「地獄の罠」 ・・・ 競馬場に全財産を持ってきた男、簡単な詐欺と掏りに逢ってなくしてしまう。すっかり絶望した男は自殺、世間はリュパンの仕業とうわさする。この濡れ衣を晴らすために、なくした財産を補填したのだが、未亡人が怪盗に教われて瀕死の重傷を受けた。リュパンが訪れると、夫人は実は元気であって、リュパンを待ち構えていたのだった。さて、絶体絶命の危機をいかに抜け出すか。間抜けなスパイに成り下がってしまったリュパン、この作品ではいいところがない。
「赤い絹の肩掛け」 ・・・ 乱歩編「世界短編傑作集2」に所収済。短い人生なので、2回読むのはやめておく。
江戸川乱歩「世界短編傑作集 2」(創元推理文庫) - odd_hatchの読書ノート
「白鳥の首のエディス」 ・・・ 古くからのタペストリを所有している公爵がいる。リュパンはそのタペストリを盗むことを宣言していた。公爵は厳重な警備を行っていたが、盗難予告の夜、停電が起こり、12枚のタペストリは盗まれた。絶望した公爵は家を飛び出て、顔を汽車につぶされた死体となって発見される。事件から半年ほどたち、ガニマール警部は驚愕の真相を明らかにした。しかしリュパンはまたしても警部の裏を書いてしまう。停電とその間の盗難、その裏に隠された別の意図、というのはこのあと何度も繰り返される趣向になった。
「麦藁の軸」 ・・・ 田舎の富豪農家。大金を用意しておいたところ、浮浪者が侵入して女中を殴り、金を奪った。農家の親父と息子たちは武装して家を警備することにした。なにしろ、家は塀で覆われ、銃で武装した連中が四六時中うろついているのだから、逃げ出すことはできない。しかも唯一の水は泉にしかなく、そこは誰か一人が必ず見張っているのだ。しかし4週間たっても浮浪者は見つからない。そこに自動車が故障したとかで、見知らぬ紳士が訪れ、すぐさま謎を解いてしまう。そのうえ、金を巻き上げてしまった。これも「赤い絹の肩掛け」と並ぶ有名作。瑕疵は多いけど(臭いでわかるだろ)、意外性が受けるのだね。のちに乱歩は郵便入れに変装するトリックを繰り返し使ったが、その先駆。タイトルが麦藁でなく、そのままストローだったらこれほどの有名作になったかな。
リュパンの結婚」 ・・・ とある公爵の娘とリュパンが結婚するという広告がでた。この娘は30歳を過ぎているが18歳のときに出会った男の幻影が残っていて、結婚話をすべて拒否していたのだった。もちろんリュパンの結婚広告は公爵の証券を奪取することが目的であったのだが、利用するだけのつもりの娘が本気になってしまった。さて困った、リュパン。いったいなぜ娘は結婚を承諾したのか。
 この短編集のリュパンは若いなあ。部下がいてもまっさきに館に侵入するわ、罠とわかっていても訪れるわ、失敗もたくさんするわ、と経験の浅いところを露呈してしまう。それに、女に対して初心で、これより先の小説のように自分の魅力に自信をもっているわけでもない。駆け出しの青二才の冒険が行われる。この若さと初心さがまずはリュパンの魅力だったのだね。
 あとリュパンを怪盗、犯罪の側に置くことによって、作者は困っただろう。小説が、(1)視点を警察の側におき、リュパンに裏をかかれる、(2)被害者の側におき、リュパンの神出鬼没と奇想天外なトリックに驚く、(3)視点をリュパンの側におき、手ごわい相手の罠から抜け出す、(4)リュパンを名無しとして登場させ漁夫の利を得る、というようなパターンに陥ってしまうから。しばらくはリュパンを使うとしても、途中でその名を捨てさせたというのは、この種のパターンに飽きたからではないかしら。
 短編集としては、「赤い絹の肩掛け」 と「麦藁の軸」がずば抜けてすばらしい。その他は低調。