英文学教授ルースベンは呆然と立ち尽くした。女が胸に短剣を突き立てて死んでいたのだ。彼がこの女ローズを訪れたのには理由があった。彼女との仲が原因で妻に逃げられたルースベンに、ローズの家に行くようにという謎の電話があったのだ。他殺の疑いが濃かったが、現場は厳重に鍵がかかった密室だった─ウィルキー・コリンズが書き残したといわれる筋書きどおりに行われた密室殺人の謎! 名探偵フェル博士登場の本格傑作
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1958年の作だが、1949年の出来事という記載もあって、どっちが本当だ? たぶん、前者の年に近いのだろうと推測。舞台はアメリカ、ワシントンの大学キャンパス内。英文学や歴史学の教授とその家族達が主人公で、なぜかキャンパスの中なのにバンガローに住んでいる美貌の独身女が周囲に不和の種を撒き散らしているうちに、本人自身が殺されてしまう、というもの。
舞台設定がカーに珍しい。それに主人公達も30代半ばあたりの、結婚生活に飽きてきたころというのがいまの中年の自分には親近感を持つことになった。これを10代20代に読んだら面白さは感じなかっただろうな。些細な出来事が最後にぴったりと収まる手腕は健在。そのかわりにカーらしいケレンミがない分、評価が低いのだろう。自分には、経済成長下の安定した50年代の生活描写というのに魅かれて楽しめた。このころから、家族や共同体の規範が解体し始めたのだな、その象徴が殺された独身女にあるのだった。
このところカーについていつも思う、一九世紀モラルと20世紀の個の解放が相克するという主題はここにもあった。ギデオン・フェル博士は一九世紀的なあるいは騎士道的なモラルの体現者で、若い教授たちの「奔放さ」というのとは相容れない。でも、この小説のフェル博士はずいぶん若い連中の機嫌を伺っているようで、しかも肩を入れているようでいて、気の弱くなっている感じがする。
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