odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

カーター・ディクスン「赤後家の殺人」(創元推理文庫)

その部屋で眠れば必ず毒死するという、血を吸う後家ギロチンの間で、またもや新しい犠牲者が出た。フランス革命当時の首斬人一家の財宝をねらうくわだてに、ヘンリ・メリヴェル卿独特の推理が縦横にはたらく。カーター・ディクスンの本領が十二分に発揮される本格編である。数あるカーの作品中でもベストテン級の名作といわれる代表作。
赤後家の殺人 - カーター・ディクスン/宇野利泰 訳|東京創元社

 冒頭から100ページまでを読んだ。ここまでのストーリーが素晴らしい。第1章はイントロダクション。第2章から舞台は赤後家に変わり、ほぼ同じ部屋で人物の紹介・過去の不思議な事件の語り・カードによる死にたい人の選出・実験の開始・事件の発覚・謎の確認が行われる。この密度、語り口の滑らかさ、カードを開いていく時の恐怖(誰に当たるのか!)、十分に描き分けられたキャラクター、謎の底深さ(密室!キャラクター全員にアリバイあり!)、過去の怨念(オカルト好きも伝奇小説好きもぞくぞくしちゃう一族の歴史!)などなど。ミステリを読む快楽というのは、こういうことなのだ。
 中盤のサスペンスには、フランス革命を舞台にしたゴシック・ロマンスが語られる。革命の渦中に飛び込んだイギリス青年とフランスの貴婦人の恋愛。これが赤後家の遠因になる。下記参照(日付を変えてかいたので、重複しています)。
 結末を知った上で読んだのだが、伏線は非常に微妙なところに隠されているのだね。登場人物たちがいろいろな会話をするのだが、ほとんどすべてが勘違いか思い込みか与太話。物語を引っ張る力量に感服です(とはいえ、出版から70年以上たっていると、古風さと展開ののろさにいらいらしてくることもあるのだが)。
 H.Mは奇矯な人格と毒舌の持ち主。それが魅力的に見えるのは、脇のマスターズ警視が謹厳実直、イギリスの公務員を具現化した人物だから。この対比があることで、H.Mが魅力的になる。

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 ふたつのことを考えた。
(きわめてネタばれに近いです。いいですか、注意しましたからね。)




 中盤に赤後家という奇怪な家名の由来が語られる。すなわち、ルイ王朝時代の死刑担当役人の話。フランス革命で発明されたばかりのギロチンで多数の貴族、娼婦、反革命者などをあの世に送った(この革命の流血はフランス「神々は乾く」に詳しい。いずれ取り上げることになるだろう)。この嫌な仕事を押し付けられた一家。十分な報酬の代わりに不名誉を与えられ、死者の呪いのせいか、奇怪な死を遂げた人物が4人も現れる。この理由ものちに合理的に解かれ(とはいえ実証に耐えるものではない)、不可解が解消する。この挿入話を取り出して拡大発展したのが、「喉切り隊長」、といえるかな。
 もうひとつは、犯人の描き方。この怜悧な真犯人は、たとえば「猫と鼠の殺人」に共通する。
 もとは1935年作なので、著者の初期の作品になるのだが、のちに現れるモチーフがふんだんに入っているわけだ。

赤後家の殺人 (創元推理文庫 119-1)

赤後家の殺人 (創元推理文庫 119-1)