odd_hatchの読書ノート

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モーリス・ルブラン「特捜班ヴィクトール」(創元推理文庫)

リュパンが逮捕される。神出鬼没、天下無敵の怪盗紳士が豚箱入りとは。債券の盗難事件を発端として展開する波瀾万丈の大絵巻のなかで浮きつ沈みつする美女、こそ泥、えせ貴族たち……それを押しのけ、ヴィクトールは遂にめざすリュパンをしとめる。しとめることはしとめたが……リュパンはどこに行ったのか、美女を擁して?
特捜班ヴィクトール - モーリス・ルブラン/井上勇 訳|東京創元社

 このサマリー、1960年代の東宝アクション映画の予告編のナレーションだな。訳者井上勇は1901年生まれ。初出は1973年。この出版に関わった人たちにとっては、こういう文体、挑発なんかは「自然」だったのだろうな。数年後にでたハヤカワミステリ文庫のサマリはもう少しこなれていて、そのあたり、中学生にとってはハヤカワのほうが「新しかった」。
 物語はヴィクトールが謎めいた美女を見かけるとことから始まる。そこで国防債券の盗難事件が起こり、それを捜査していくと怪しい伯爵に出会い、彼を捜査していくと彼の情婦が殺され、その殺人犯を追うためにヴィクトールは変装して・・・という具合に、出たとこ勝負というかいい加減というか、あてずっぽうというかそういう捜査をしていると、真犯人が向こうからヴィクトールに近づいてきて・・・。
 ヴィクトールは捜査の過程でペルー人マルコス・アヴィストに変装し、さらにヴィクトールはわれらがリュパンの変装した姿であった。リュパンを名乗るアントワーヌ・プレサックもまた変装する人物である。こんな具合に、真実なんかないのよ変装の下には真の顔などない、変装することで自分を欺いているのよ、こんなことを書いていたのではないかな。ホームズは「真」であろうとしたが、リュパンは「真」になど歯牙にもかけず、変のもとあらゆる宝石を集めることに執着していたのだった。