odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

都筑道夫「未来警察殺人課」(徳間文庫)

 その時代では強い殺意を持った人間は事前に察知することができるようになり、矯正することによって殺人を防いでいた。しかし、その種のスクリーニングでは判別できない殺人傾向を持つ者がいて、それは「殺人課」が担当する。すなわち事件を解決するのではなく、ことの前に彼らを抹消するのである。殺人課の刑事は、矯正手段が通用しない強い殺人願望を持つもの。体内に爆弾を仕掛けられ、依頼以上の殺人を犯すと抹殺されるようになっている。というわけで、冒険と殺人のなくなった時代の犯罪小説。SFの世界に迷い込んだ和製ジェームズ・ボンド(かつノーマン・ベイツ)。合法的な 「闇を喰う男」。あと、ここでは事件が起きてから犯人を捜すのではなく、だれが被害者であるか・どうやって殺人を犯そうとするのかを普段の言動から推理しなければならない。さらにテレパシーがあるという前提。このようなちょっとずれた「現実」でいかに合理的・論理的な解決をつけることができるか。

人間狩り ・・・ 「日本人」(この世界は地球とは別の天体だが、郷愁から地球の地名を付けている)の水沢が殺人願望を持っているということで「ケニア」に主人公・星野が派遣される。すぐさま、土地の巨大な猿のごときものにレストランで襲われたり、飛び乗ったタクシーで罠にかけられ水死しそうになる。なぜ、水沢は姿を見せず、なぜ星野の行く先々で待ち伏せがあったのでしょう。
死霊剥製師 ・・・ 「ニューヨーク」で高輪刑事が失踪した。派遣された星野は高輪が最後に会った女に接触する。彼女に案内されたのは、罠の仕掛けられたマンションに、スナッフもどきのグロテスクショー。アングラ世界の犯罪を摘発し高輪刑事を奪還した。そのあとのドンデン返しはみごと。
空中庭園 ・・・ 東京新宿のビル街にできた空中庭園。その設計者が殺人願望を持ち、庭園のお披露目中に誰かを殺す計画を立てているらしい。星野が庭園に侵入したとき、設計者も脱走して庭園にやってきた。そのとたんに出入り口は締まった。設計者はだれを殺そうとしているのか、大きすぎて目に入らない殺人機械とは何か。
料理長ギロチン ・・・ 今度はパリに出張して、詐欺師で刑事を殺害した金森を探すことになった。しかしパリとドイツの警察は麻薬に関与しているようだから、仕事はわれわれのあとにしてくれと依頼する。その間、星野は金森の足跡を追い、ある地下レストランで客でいるところを発見(このレストランの料理のグロテスク趣味もなかなかナイス)。星野は金森に変装して、彼を雇った男と接触しようとしてレストランに入ると、警察の手入れが。金森と誤認されて逮捕されそうになる。星野の危機一髪。3回くらいのドンデン返しがまた見事。
ジャック・ザ・ストリッパー ・・・ 今度はロンドンの話。日本から学会に出ることになった布施博士が殺意をもっているとスコットランドヤードから連絡があった。東京のテレパシストのミスだとすると、自分にも火の粉が降りかかるので星野が出張ることになる。ヤードの刑事とテレパシストと一緒に捜査を開始。布施がとったホテルの部屋では危うく麻薬ガスを吸いそうになり、新規開店した遊園地のジェットコースターで原住民が人権回復運動で博士らを人質にとる。ジェットコースター上の戦いは「なめきじに聞いてみろ」の最初の冒険と同じだ。ここでもドンデン返しが見事。
氷島伝説 ・・・ グリーンランドの洞窟で遺跡が発見された。その壁画を調査にきた日本の博士がホテルに帰還すると突然暴れだした。たまたま同じホテルに居合わせた星野は、デンマークの新聞記者の依頼で壁画の調査をすることになる。アニタの提案が不審だったので、独自に遺跡を調査することにしたら、猛獣に襲われた。超古代文明の遺跡が登場するのはセンセーにしては珍しい。
カジノ鷲の爪 ・・・ ラスヴェガスには不審な私有島と私設療養所がある。殺人願望を持つ佐伯がその島で失踪した。あとを追って星野が潜入。私設療養所は殺人願望を満たし、薬物による治療を研究する秘密組織だったのだ。おお、懐かしの冒険活劇映画の悪役組織だ! 星野はここでは推理よりもアクションに重点。鎖につながれて拷問にかけられ(数名の美女に嬲られるといううらやましい、もといおぞましい仕打ち)、狂乱した患者との乱闘があり、悪役たちの罪のなすりあいはだれがだれかわからなくなるというリドルストーリーのなるところを強引に冒険小説的に解決する。


 星野の出張先である各国の殺人課の出入り口が奇妙。レストランのVIP用ルームだったり、ポルノショップだったり、遊園地の改札だったり。ここらへんでセンセーが遊んでいるのがわかって、こちらもにんまり。あと俺の世代だと、特撮TV番組「マイティ・ジャック」がそんな意匠だったのを思い出せるのもあって、にんまり。1979年初出。
 SF的探偵小説はなかなかお目にかかれず、しかも世界の設定から合理的に謎をとくという本格的なものは極めて少数。それを克服し、アシモフ鋼鉄都市」「裸の太陽」に比べられる水準にもっていったというのはすごい。まあ、初出のあとのSF潮流であるサイバーパンクを経由してしまうと、世界の構築のところが古いと思わせる。単純化してしまえば、センセーの世界では、自己同一性は保持されるし、その前提になる自我や理性の揺るぎはない。だから星野は自分が警察の犬であることを認めているし、自分の欲望の発露を承認するから辞めることは考えない。このような自分とか自我とか存在への懐疑がない分、読者は安心して読めるし、どこか物足りないと贅沢なことを考えたりする。

 (続く →「ロスト・エンジェル・シティ」)

 <追記;2014/3/14>
 長らく絶版だったが、創元推理文庫で合本で復刊された。