odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

押川春浪「海底軍艦」(ほるぷ出版)

 東宝特撮映画「海底軍艦」のオリジナルということになっているが、それはタイトルだけ。ストーリーは異なる。
 西欧を放浪していた青年がある名家の主人に妻と子供の帰国を助けるよう依頼される。しかし、奇怪な軍船に追跡された後、暴風雨に出会い、船は沈没する。子供と二人、インド洋の孤島に漂着した男は、以前日本海軍をでて行方不明になった軍人と再会する。彼の目的は・・・という具合。物語はほとんどロビンソン・クルーソー的な漂流譚と、軍艦建造の苦労。密林における少年の冒険と奇怪な新造兵器の活躍。ようやく出撃した軍艦は、男を追跡した海賊と戦い勝利し、勇躍日本に帰国する。ラストシーンの富士山は印象的。よく出来た予告編であって、海底軍艦の活躍が少なく物足りない。実際、この続編はいくつも書かれたのであった。そして「日出男」少年は、昭和20年までの日本少年の祖形になったのだった。
 1903年(確か)に出版されたとあって、海外事情はヨーロッパを除くと正確ではない。とくに南洋の孤島の描写はずさんというしかないか。まるで大島か八丈島というような場所。まあ、仕方がない。むしろ、ここに書かれた日本的な南洋が後の「南洋パラダイス」のイメージを作ったのかもしれない。その点では、映画「海底軍艦」のみならず、一連の東宝特撮映画やマンガの原型になったといえるだろう。また、孤島における男たちの規律ある共同生活は、近代の労働者にとってのパラダイスかもしれない。見識に優れ目標を見失わない指導者、判断力と臨機応変さに富んだ中級士官、陽気でタフな兵隊。マドンナ役の女性とみんなのマスコットになる子供がいる、となると、こんなに魅力的な生活になるんだよ。それは、国策に参加することで実現するんだよ。そんなメッセージが込められているのかな。
 ほるぷ出版版はおそらく、戦後唯一出版されたものではないかしら(いや復刻本は他にもありました)。文庫本とほぼ同じサイズで、箱が付いている。本文は戦前出版を写真製版したもので、赤黒の二色刷り。本文の漢字にはすべてルビが振ってある。後ろには新刊予告や過去のタイトルが並んでいる(ここを見るだけでも楽しい)。1970年代の刊行であるが、いまでも古本屋に並ぶことがある。
  

とはいえ、この小説は青空文庫で復刻しているので、PCやモバイル端末などで読むことができる。
図書カード:海島冒険奇譚 海底軍艦