odd_hatchの読書ノート

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江戸川乱歩「鉄塔の怪人/海底の魔術師」(講談社文庫)

 戦後になってから書かれた少年向けの明智探偵冒険譚。

鉄塔の怪人 ・・・ 白髪の老人がのぞきめがねを見せた。奇怪な鉄塔とカブトムシ。その翌日から、荻窪(周囲に民家のない閑静地)に住む高橋家に奇怪な事件が起こる。一千万円を鉄塔王国に寄付せよ、さもないと10歳の賢治くんを誘拐してわれらの手先にするぞ。青ざめた父の太一郎は明智探偵に依頼するが、あいにく出張中。そこで小林少年が高橋家を監視する。しかし、怪人は彼らの裏をかき、賢治くんをまんまと連れ去ってしまう。そこは優秀な小林少年、警察の知らぬ間に怪人の自動車に乗り込み、木曽の山奥にある鉄塔王国に乗り込むのだった。
 鉄塔王国とは何を目的にした組織なのかいっさいわからない。かれらが子供を誘拐するのはカブトムシ少年隊という悪の軍団をつくることにあるのだが、どうも「かわいらしい少年」をはべらせいたぶることのほうに興味があるようだ。世界征服というプロジェクトからするとなんとも迂遠なミッションを立てたものだが、まあのちの仮面ライダー戦隊ものに登場する悪の組織が幼稚園を襲うというフォーマットを先取りしたと思えばよい。
 書かれたのは1954年で東宝の「ゴジラ」や「透明人間」の年。鉄塔はこの時代に建設されだした電柱で、それが乱立する鉄塔王国は工業化されたこの国の未来図であるのだろう。f:id:odd_hatch:20191120093400p:plain
(「ゴジラ」1954年の鉄塔)
とすると、鉄塔王国はこの国の急激な工業化・電化に対する恐怖や怯えのシンボルであるといえる。そして、鉄板やビニールでできたカブトムシの着ぐるみに少年が押し込められ、無様にあがくしかないのも、機械の奴隷になる工場労働者の恐怖や怯えを現しているのだろう。多くの年少の読者が持つ漠然とした世界や将来への不安感を巧みなメタファーで表現した。といえる、かな。相当にストーリーはご都合主義でいい加減なんだけど。しかも白髪の老人=鉄塔王国の首魁が怪人二十面相で、鉄塔から墜落死するというのは安易なもったいない結末のつけ方。もちろん、怪人二十面相は死なない、何度でもよみがえる、のさ。


海底の魔術師 ・・・ 戦前に金塊を積んだまま沈没した貨物船がある。沈没地点があいまいだったために、行方不明であったが、生き延びた船長が記録を残していた。それを手に入れたブルジョアの宮田家、さっそく引き上げの準備にかかる。そこにカニに似た鉄の怪人が彼らを襲う。水中の戦い、潜水艇同士の戦い。怪人たちは、明智探偵の手を借りた宮田グループを退けることができない。そこで宮田家の子供・賢吉を誘拐して、脅し取ることに変えた。さて、明智探偵と小林少年はどうする。
 物語のほとんどが、南海の孤島と船の中、ときに海中。明智探偵と怪人の追いかけっこやだましあいがないので、どうにも単調。
 1955年の作。冒頭がサルベージ会社の潜水夫に起きた怪異。海中から湧き出てくるカニのような鉄の怪人。というわけで、「ゴジラ」や「海底軍艦」を思い出さずにいられない。この小説によると、当時の潜水夫は船の支援者と電話で会話はできたが、潜水夫同士の電話はできなかったという。手をつないで電線をつなぎ直接会話する仕組みもあったそうだ。高価なためか装備率は低いらしい。「ゴジラ」1954年のラストシーンで、芹沢博士は秘密兵器をセットしたあと、尾形の肩をたたき先に上がらせる。そのすきに命綱を切るわけだが、その間、会話がなかったのは、当時の装備がそうさせたわけだ。船上に上がって電話口にでた尾形に芹沢博士は遺言を伝える。ああ、せつないねえ。
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(「ゴジラ」1954年。潜水夫と話をするには、船の電話を使うしかない。)
と、「海底の魔術師」に関係ない話をしてしまった(このあたりの事情は今でも変わりないとみえて、2013年の連続テレビ小説あまちゃん」に登場した南部ダイバーの訓練でも、水中の潜水夫は無線や電話ではなくハンドシグナルで合図を交わしていた)。


 駄作になると、作者の趣味や本性などがあからさまになる。ストーリーがつまらないとそういうことを探そうとするので、かえってページの捲りが遅くなる。最初のはそういうところが見つかったので好評価になるけど、あとの作はなにもなかったので、とても退屈でした。