odd_hatchの読書ノート

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一橋総合研究所「「身の丈起業」のすすめ」(講談社現代新書)

 新刊書店であろうが、中古本屋に行こうが、「起業」に関する本は大量に出ている。いいかげんに分類すれば
1.起業して成功した人が過去を振り返る回想本
2.スケジューリングや法律など起業の手続の解説本
ということになる。1を読むとファイトは湧くがノウハウを得るには特殊的にすぎ、2を読むと煩瑣な手続を熟知するが意欲を減退させることになる。それにどちらも拡大基調を前提にしているので、それほどのおおがかりな企業にすることを望んでいないものにはどうにもということになる。知り合いに起業や起業後の内部管理体制のことなどを聞かれることが多いので、いくつかの起業本を読んできたが、納得するものにはなかなかであえない。
 タイトルに引かれてよんでみたが、「身の丈」というタイトルにあるように、視点は気軽なところで、サラリーマンの実情にあう平易な書き方になっている。まあ起業というと、不退転とか失敗したら人生破滅という厳しさを感じるのだが、そんなところまで自分を追い込ませないでいいよというところが好感。自分がふだん考えるような社長あるいは経営者のありかた、会計の勉強などが記載されているのもよしとするところ。このあたりをやさしくかつリアルに表現する本はなかなかないのだ。おそらくはITバブルの2000年前後の時代を経験しているライターと起業家のスタンスがそれ以前と変わってきたからだろう。
 とはいえ、起業することがとてつもなく重く、厳しい、そして少数の決意性の高い人だけができるものというイメージは昭和の半ば以降に作られたものだろう。それ以前には、起業することはそんなに大仰なものではなく、簡単に行ってきたのだ(とりわけ敗戦直後からしばらくの間。のちに巨大上場企業になる企業も、当時は給料を支払えず、やむなく自営を開始した人がたくさんいたのだった。1980年代にはそういう経験を持つ爺さんの話を聞くことがよくあった)。
 転換したのは戦後の金融政策に理由があるのではないか。株式会社は負債に対しては有限の責任を負えばいいものであるはずなのに、会社が借入を行う時に代表者個人に連帯保証を付けるために、結果無限責任のようになってしまう。たぶんシャープ勧告による緊縮財政政策で金融機関を保護するためではなかったかしら。
 いずれにしろ会社に所属する人がほとんどでいるのに、会社について知っている人が余りに少ない、そのことが社会をどうするかについて見当違いの意見を持つことになっていると思うので、こういう本から会社や社会を考えるようになってほしい、と他人事のような意見を書いておく。
 あと重要なこととして、確定申告のやりかたは覚えておかないといけない。「身の丈企業」レベルの売上が小規模のときは税理士を頼むと、それだけで利益が消えそうになるから、領収書の保存と帳簿の作り方、領収書の出ない交通費の記録方法、通帳の定期的な記帳と帳簿の作り方、水道光熱費その他の分配方法など最低限のことはやれるようにしておこう。自分はファイルメーカーを使って管理するので、1カ月分の処理は2時間もかからない。まあ伝票が月100枚くらいという小規模だから可能なこと。