odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

あらえびす「名曲決定盤」(中公文庫) 1万枚のSPレコードを収集したマニアの在庫管理(分類と整理)の方法は21世紀にも通用する。

 ここではおまけのように書かれているSPの保管方法について紹介。ここに書かれている分類と整理の方法を会得すると、他に応用が利くから。これを参考に自分は蔵書の並べ方を検討し、管理ファイルを作成した。その経験は実は、ビジネスの現場、というよりバックヤードとロジスティックに大いに役立ったのだ。たとえば、月に10万枚発生する書類のファイリングとデータベースの仕組みを作るとか、在庫金額2億円・品数6000点の倉庫を素人ばかりで立ち上げるとか(初月のみ棚卸し差異が出たが、翌月からは差異は0になり、ずっと継続)。そのベースになる方法はあらえびす氏に教わった。どうもありがとう。
 いくつかのポイントをレコードということにこだわらないで超訳で書き出してみよう。
・品数100個くらいまでなら、仕組みもファイリングも置き場所も気にしないでOK。自分の記憶で問題ないから。
・これを超えると、ルールが必要になる。だいたい10以下のカテゴリーを作って、その中に品を分けるのだ。そうすると、一カテゴリは100個以下になるので、その中では記憶でOK。それぞれのカテゴリは張り紙やラベルを表示することでOK。
・カテゴリには「雑」「その他」のような分類不可能なものをとりあえずいれておくところを用意する。
・1000を超えると、このカテゴリでは対応できなくなり、サブカテゴリを作ることになる。そのサブカテゴリも収録点数が多くなってきたら、さらにサブカテゴリを作る。クラシックレコードでいうと
大分類 : 年代(ルネサンスバロック、18世紀古典派、19世紀前期ロマン派、19世紀後期ロマン派、20世紀)
サブカテゴリ1 : 国
サブカテゴリ2 : 作曲家
サブカテゴリ3 : 交響曲管弦楽曲、協奏曲、室内楽曲、器楽曲、声楽、オペラ、その他
サブカテゴリ4 : 作品名
サブカテゴリ5 : 録音年、レーベル、演奏者
のような感じ。 これは一例であって、大分類をレコードレーベルにする人がいてもよい。個人や企業の管理であればローカルルールであればOKで、なにも日本図書分類などの公的な分類基準を守る必要はない。
・品の並べ方もこのカテゴリー順にする。あとは取り出しやすさや使う頻度などを考慮してラックや棚を用意する。
・あとは、「雑」「その他」のとりあえず分類の中を見直して新たなカテゴリを作るとか、どこかのサブカテゴリにいれるとかで、定期的に見直し。たとえば、上とは別に「ヒストリカル」→「演奏者」を作るとか、「worldmusic」→「タンゴ、ソウル、ボサノヴァ」→「演奏者」を作るとか。もうひとつはときどき配置を換えたり、掃除をしたり。品数が増えると、カテゴリとその分枝の見直しが必要になる。ここのポイントは、1000個の分類カテゴリと10000個のカテゴリは違うよ、ということ。
・何を在庫するかを知るためには、データベースシステムが必要になる。あらえびす氏はカードを作っていた。彼のように4万枚のSPレコードを持っているとなると、カードを作ることはあきらめたようだ。でも、今ならPCでカード型データベースの構築は難しくない。難しいのは入力とメンテナンス。なので、やりたい人は1000個を越える前に着手したほうがよい。
(さらには、単品管理のためのシリアル番号発番とか、バーコードラベルの作成とか、棚番号の発番とデータベースへの反映とか、棚卸しのやり方とか、いろいろなテクニックが別にあるけど、あらえびす氏はそこまでやっていないし、煩瑣になるので省略。)
 だいたい以上。自分は一時期2000枚のCDを持っていたが、聴きたいCDを見つけるのに30秒もかからなかった。誰かに「あの曲のだれそれの演奏したCDはどこ?」と問われれば、「棚Aの上から3列目の右から2段目の引き出しをあけて、後ろのほうの左から3分の1くらいのところにある」と答えることができた。ハードカバーと文庫と雑誌が5000冊を越えたときでも、ほぼ同じことができた。MP3のような録音データをPCで管理するときのフォルダーとディレクトリーの作成にも応用できる。ここでも自分は逡巡することなく(PCの検索機能に頼ることなく)、聴きたいMP3データに30秒以内にアクセスできる。
 大分類を入れたフォルダ。

 サブカテゴリ2を入れたフォルダ。

 重要なのは、この本が書かれたのは1938年(昭和13年)。そのときには、ファイリングとデータベースの思想ができていたということ。ただ、その方法はたとえば「レコード芸術」などには紹介されることはまずないので、マニアや読者は独学で学ぶしかなく、適切な方法を自力で見つけるのはなかなか難しい。もったいないことだ。

  

 念のためにいっておくと、この本の90%は1920-30年代に活躍したクラシックの演奏家と彼らが残した録音についての記事。上記のファイリングとデータベースは30ページもない。この分野に興味のない人には、読むのは厳しいかもしれないね。