odd_hatchの読書ノート

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ニュー・サイエンティスト編集部編「つかぬことをうかがいますが・・・」(ハヤカワ文庫)

くしゃみをすると目をつぶっちゃうのはなぜ? 瞬間接着剤はどうしてチューブの内側にくっついてしまわないの?……お固い科学書ではまずとりあげないけれど、だれもが知りたい日常の“疑問”を科学的に解明するエヴリデイ・サイエンスQ&A集。イラスト:水玉螢之丞
つかぬことをうかがいますが…──科学者も思わず苦笑した102の質問 | 種類,ハヤカワ文庫NF | ハヤカワ・オンライン

 本書は内容よりもバックヤードのことのほうがおもしろい。イギリスの「ニュー・サイエンティスト」という雑誌の最後のページに読者からの質問コーナーがあった。当初は専門家が答えていたが、1994年から解答欄を読者に公開した。読者は手紙、FAX、電子メールを使って解答を寄せた。次第に人気が出てくるようになり、1998年に出版された。もちろん編集部による選択が行われたにしても、基本的には読者の投稿がそのまま掲載された。面白いのは、投稿された解答に対する補完・補足説明、場合によっては反駁、別の説明の提示などが行われていったこと。
 こういう発想にもとになるのは、個人の智恵や知識には限界があって、その代わりに集団がよってたかって智恵を出し合えば、個人が発想するものよりさらに優れたものが出るだろうという考え。科学者集団の中ではこういうのが制度として作られていて、学会で発表しただけでは知識としては認められず、複数の科学者によって評価しあうことによって、知識の質が保証されるようになっている。これをアマチュアや科学者集団の周辺にいる人たち(企業の技術者とか高等教育機関の教師とか)にも開放したというわけ。投稿の質を最低限保証するものとして、雑誌の編集者および発行している出版社の見識が機能している。
 これは<民主主義>の考えと一致している。個人に判断の権限や知識を集中していると、暴走することがあったり、担当者を変更することに時間と費用がかかったりと問題が多いから、より多くのものを参加させ、集団で検討することによって「正しさ」を保証し、不平不満などの異論を盛り込んだ提案ができるようにする。まあ、こんな考え。この本ではうまくいっているように見える。雑誌がハイブロウであるから読者の質が高く、明文化されていないモラルを共有しているからだろう。
 とはいえ、本から話はずれるが、このモデルを有効に働かせるためには、それなりのコストと監視機能が必要でありそうだ。ここでは、たとえばwikiのようなwebの共同編集による百科事典作成プロジェクトや大手のポータルサイトが運営している知恵袋機能などを想定している。参加者に陰謀論者やビリーバーと呼ばれる人が集中し、議論の方法を無視したやりかたで編集されると、知識の質と情報の正確さが保証されなくなる。それを担保するには、監視者を置き、だれかが編集権限を持たなければならなくなる。これは<民主主義>の理念には反することになるわけで、もしかしたらプラトン哲人政治とかルソーの少数エリートによる寡頭政治にちかいものになる。そういうのはどうなん? と本とは無関係なことのほうが気になった。