「若葉萌す春、緑なす夏、紅葉の秋、枯槁の冬……そして新生の春。植物学者は四時とりどりに忙しい。その生活に重ね合わせて、あるいは花占いの果てとも見える場景に犯罪を匂わせ、あるいは自殺志願者が遺体発見を遅らせたがった理由に植物学的考察を試みる。自然界へのオマージュが織りあげた錦繍の四編を収める、端整なデビュー短編集。」
デビューと謳っているが、その後に発表された作品はない模様。たしかに、これだけ目の積んだ文章を書くというのは大変で、職業作家であるというのはむずかしいだろう。謎解きの爽快さはない代わりに、丹精な文章を「読む」楽しみを味わうことになる。これだけの文体を備えているというだけで珍重するべき作品。
■「いざ言問はむ都鳥」
■「ゆく水にかずかくよりもはかなきは」
■「飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」
■「むすびし水のこほれるを」
ほとんどが一人称の独白。見事な観察力をもつ魅力的な人物でありながら、ミステリについてはすこし間の抜けているというのが、ワトソン役ということになるのかな。これを読むと、探偵の一人称によるミステリというのが書けないというのがわかる。たしかに、ある人物の服装を描写している最中に、「ん、俺はこいつが釣り人と思っていたが、つりざおをもっていないぞ。なんだ、ポケットの多い袖なしジャケットをきているからそう思い込んでいたのか」などという文章を書いてしまったら、台無だものな。(アシモフに「ユニオン・クラブ奇談」というのがあって、これは探偵が自分の経験をかたるものだった。このときは、お前にこの謎が解けるか(わしは解けたぞ)と挑発と自慢をするという設定なので、問題をクリアしていた。やはり探偵のナラティブは意地が悪い。)