odd_hatchの読書ノート

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ヘンリー・クーパーjr「アポロ13号奇跡の生還」(新潮文庫)

 2009年2月8日に「ザ・ムーン」という映画を見た。原題はThe Shadows of the Moonで、月着陸計画のドキュメンタリー。NASAの秘蔵フィルムとこれまで月の地に落りたった12人のインタビューを合わせたもの。これまで見たことのない映像もあれば、30数年前のライブ映像でたしかにみたという記憶のある映像もあった。とくに11号の二人目の飛行士が着陸船から降りて、月面を歩き回るシーンは、祖母にたたき起こされてTVに映ったものと同じで、それをガキであった自分はみていたのだった。その時間のへだたりに圧倒された。また、現在は70代の老人になった飛行士たちの威厳と自信と確信に満ちた映像と言葉にも打たれた。自分には、アポロ計画で費やされた費用の巨額さが別の投資に向けられていたら、という批判も持っているので、完全に共感するというわけにはいかないとしても、彼らの人格的な巨大さには敬意を表する。
 というわけで、アポロ13号の事故とその克服の記録を読む。これは1972年6月に行われたミッションで、月に向かう途中で液体酸素タンクが爆発し、帰還できなくなるのではないかという事態。このとき、小学生であったはずだが、あまり記憶がない。事故の発生から帰還までは3日間。学校に通い、アニメや特撮を見る合間に朝と夕方のTVと新聞だけで追いかけるのでは、事故の進展はあまりに速かったから印象に残らなかった。それに1972年は、札幌オリンピック連合赤軍事件で大ショックを受けていたから。
 とはいえ、裏側では大変な事態が起きていたのだった。原因不明で宇宙船が故障し、急激な電力の低下に直面する。地上からは数千キロも離れているので、救援チームを派遣することもできない。場合によっては、人類初の宇宙空間での死者を出すかもしれない。しかも死体の回収もできないかもしれない。このような危機に宇宙船のクルーと地上の管制官が共同してことにあたり、さまざまなチームが一丸となって最悪の事態を回避し、とりあえず人命を救うことに成功する。これはひとつの危機管理のあり方。たぶんこのときの出来事は終わってから様々に研究されて、それはビジネスや政治で応用されるようになったのだろう。アメリカの経営、というかマネジメントのすぐれたところが集約されている。あと重要なのは、この危機管理に責任を持った連中が20代、30代であったこと。もっとも経験の豊かな管制指揮官ジーン・クランツが当時36歳だった。重要な仕事を若い人にゆだねられるというのは、健康な組織である証左のひとつだと思う。
 カレル・フォン・ヴォルフレンの言葉を使えば、ここには創意とマネジメントのすぐれた実例があり、ポイントはそこにいる人が運用の責任と説明責任を果たしているということ。では、この国ではそのような非常事態において、創意と責任が自発的に現れるのであるか、という疑問をもつことになる。そうだな、監視をするのは得意だし、マニュアルとおりの運用もうまくいくだろう。では、想定されていない事態に直面したとき、あるいはいっせいに非難が向けられているような事態のとき、われわれは運用の責任と説明責任を果たすことができるか、そういう制度と民心が作られているか?(2009/02/22にこのエントリーを書いた)。

 おまけ