原著は1969年刊行、邦訳は1972年。入手したのは1988/11/12なので、17年ほど放置していたことになる。しかし、この時期に読んだというのは正解だった。入手した1988年のバブル経済当時においては、自分はその恩恵をこうむることはなかったにしろ、あの浮かれた世間の言説の中でこの先駆的な本を読んでもなんとも思わなかったに違いない。それどころか、タイトルにもかかわらず環境問題への言及がほとんどないことに憤ったはずだ。
ほぼ同時期に美術手帳がフラーの特集を行っていて、フラーのドームやダイマクションカーなどに興味はあった。とはいえ美術主眼の雑誌からはフラーの全貌を見ることは難しい。
フラーは先駆者であった。議論は粗雑であって、ほとんどを直観に依拠しているとはいえ、非常に長い射程で物事を見通す眼をもっている。1969年という時代にあって(高度経済成長の最中)、ローマクラブの発表以前に地球環境の悪化とそれを原因とする崩壊を予感していたからだ。経済においては高度成長であり、政治については保守であるときに、このようなリベラルな発想をするというのがすばらしい。(現在一経営用語に成り下がったシナジーを言う言葉を発明したのはフラーらしい。)
もちろんこの時代ゆえの問題、大量生産による経済成長が持続的であり、それによって人々の不公正がただされていくという見通しや共産主義と自由主義が共存するという見通し、1985年には多くの問題が解決するだろうという見通しなどなど、をもっている。それは後付でわかることであって、同時期の知識人や学者がここまでの射程で、21世紀になっても刺激的であるような、考えをまとめることができただろうかと感心する。おそらくフラーはもてはやされた1970年代よりも、今のほうがより深く理解できるのではないか。フラー再発見が起こることを願う。
(ついでにいうと、彼の創案になるドームハウスにいつか住みたいものだ、と考えている。おそらく通常の家よりも安くなると思うが、作り手が少ないので実現は相当に困難だろう。ということを10年前に夢想していた。)
2019/2/4 バックミンスト・フラー「宇宙船「地球」号」(ダイヤモンド社)-2 1969年