odd_hatchの読書ノート

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バックミンスト・フラー「宇宙船「地球」号」(ダイヤモンド社)-2 20世紀半ばの予言者にして、発明家。プロジェクト・リーダーやマネージャーの役割は期待しないほうがよい。

 原著は1969年刊行、邦訳は1972年。前回2005年に読んだので、2015年に再読。
2011/12/16 バックミンスト・フラー「宇宙船「地球」号」(ダイヤモンド社)

綜合的な性向 ・・・ 人類の生存地域の拡大や資源の有効活用などは少数の冒険家のおかげ。彼らは未知に対応するために総合的な知識を持っていた。しかし、20世紀半ばでは専門分化が進み、意味のない区別が依然として人々を分断し、半数が貧困状態にある。


専門分化の起源 ・・・ フラーは冒険家を「偉大なアウトロー」あるいは「大海賊」と呼ぶ。「大海賊」の寓話。

オートメーションの綜合的操作 ・・・ 「無数の低エネルギーの変動のただなかに、ときどき大がかりなエネルギーの変動が起こる時があって、超専門分化した生物は、一般的な適応性がないために、死滅してしまう(P43)」のであるが、人類の冒険家「大海賊」は第1次大戦と世界大恐慌で死滅したので、専門分化が進んでいる、危険。

宇宙船「地球」号 ・・・ エネルギーは開放系で物質はほぼ閉鎖系の地球を宇宙船と例える最初の例。当時、アポロ計画が進行中だったので、このイメージはすぐに共有された。影響の一例。
Galaxy Song - Monty Python's The Meaning of Life 1983

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歌詞 → 

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通常宇宙船には操縦マニュアルがあるものだが、地球号にはついていない。なので知性を使わないといけない。

一般システム理論 ・・・ 要素還元主義でもなく、ホーリスティックでもない全体把握の方法としてのシステム理論の紹介。内容が古いので、熟読不要。


シナジー ・・・ 地球の資源のうち活用できるのはわずかでいずれ枯渇する。それは「地球」号の破滅になるので、対策を立てなければならない。「富」の意味を財ではなく、生存可能日数に変えよう。専門分化した知識の相互でシナジーを確立しよう。

完全機能 ・・・ 専門分化は知識や学問のみならず、経済や政治にもあって、特定のグループが富を独占している。これを再配分して、経済的な均衡も達成しないといけない(地球号の操縦のためには)。学問と知識が世界の変革のリーダーシップをとるという論。

再生した状景 ・・・ 知識のシナジー効果を増やすために、探究や開発の奨学資金制度を提案(そうすると労働がなくなって、知識の創造に使うようになるのだって)。

「あなたと私は、本質的に異なっており、しかも互いに補足し合っているのだ。二人合わさってわれわれの平均はゼロに、つまり「永遠」になる(P153)」

というユートピアを構想。

 

 20世紀半ばの予言者にして、発明家。ただ彼の生きた時代が経済成長であったので(とくに1950-60年代)、その成長が続くという前提の論になっている。なので、生産現場のコンピューター導入やオートメ化は目論見では労働からの解放であったが、実際は生産性の向上と引き換えの労働需要の低下になり、富の均衡化ではあく格差の拡大になっている。
 この本の主題のひとつは「シナジー」であって、知識のシナジーが地球号の様々な問題を解決できるとする。実際に、この本には経済学、生態学、数学、化学、物理学、システム理論、政治学、歴史などさまざまな知が縦横無尽に引用され、複数の知見を組み合わせて新しい考えを生み出そうとしている。その予言も、上梓から50年もたつなると牽強付会、連想飛躍がしばしばみられ、説得力を欠く。
 まあそういう欠点と持つものであるが、ここでは彼のビジョンの構想力、社会システムからビルや自動車のデザイン能力に注目。彼自身が「海賊」であって、冒険野郎。人の行かないところにいって知識やアイデアをもたらす。そこに注目するべき(この本では宇宙船「地球」号のイメージ、有効資源の枯渇、現在資源だけでも富の不均衡は是正可能など)で、プロジェクト・リーダーやマネージャーの役割は期待しないほうがよい。

  

 

<参考エントリー>
2020/11/19 エルンスト・F・シューマッハー「スモール イズ  ビューティフル」(講談社学術文庫) 1973年