odd_hatchの読書ノート

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ウィリアム・アイリッシュ「黒いカーテン」(創元推理文庫)

 ウィリアム・アイリッシュもコーネル・ウールリッチもいっしょくたに。

 「ショックを受けたタウンゼントは記憶喪失症から回復した。しかし、三年の歳月が彼の頭の中で空白になっていた。無気味につけ狙うあやしい人影。おれはいったい何をしたというのだ? 殺人罪で追われる人間の孤独と寂寥を、圧倒的なサスペンスで描くスリラー派の驍将アイリッシュが、コーネル・ウールリッチ名義で発表した長編の傑作! 」
黒いカーテン - ウィリアム・アイリッシュ/宇野利泰 訳|東京創元社

 なーつかしいなあ(by佐藤允@独立愚連隊西へ!)。中学生のときに読んだのだよな。
 ストーリーは4部で構成されている。1部は導入。記憶喪失から回復した男が、元の生活に戻る。しかし、謎の男に付きまとわれている。この不安と焦燥を描き、謎の男が突入する直前に逃げ出し、真相を暴くために妻と別れるまで。2部は展開。空白の3年に向き合う決意をして、捜索する場面。自分を知っている女と出会い、ついに「事件」を発見する。3部は、「事件」を捜査する過程。不安や焦燥は徐々に取り除かれ、代わりに真犯人の復讐におびえるようになる。善意の老人との幸福な時間。4部は結論。真犯人を追いつめるつもりが、逆に襲われ、殺されそうになる。しかし・・・ という具合。
 だれかが「アニメは4部構成でできている」と発言した記憶があったので、それを意識して読んだ。すると、2部の終わり(新聞記事の引用のところ)が小説の折り返し点にあたることがわかった。ちょうど本の半分のところになる。というわけで、この小説は映画にするといいね。それも、40-50年代のハリウッドで作ってくれれば。
 独自なところは、第1部と2部。男の孤独と寂寥を書けば、アイリッシュにまさるものはない(たぶん1930年代の大不況が影響していると思うが)。このあたりの文章、難しい言葉は使っていないのに、男の心理がこちらにも身につまされる。また、鍵を握る女との出会い、女から情報を抜き出そうとする試み、女が約束を破ったかもしれないとやきもき・不安になるところの描写も秀逸。(とはいえ、妻との関係は不自然なような。3年半不在だった夫が帰ってきた後に、いきなり実家に戻れと言われてすぐに納得するかな。長い愁嘆場になるような気がするけど、そこはあっさり。独身作家アイリッシュにとっては、夫婦というのは謎だったのかも。)
 後半にはいって田舎の事件になると、クリスティやカーの描写までには至らない。それに、事件の謎解きも先行する有名作を模倣したものなので、がっかりする。
 「暁の死線」「幻の女」が、都会だけを舞台にしていたので、そのようにしたら成功していたかもしれない。

2012/01/25 ウィリアム・アイリッシュ「暁の死線」(創元推理文庫)
2012/01/20 ウィリアム・アイリッシュ「幻の女」(ハヤカワ文庫)