odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

田中芳樹「銀河英雄伝説 1」(徳間ノヴェルス) いくつかの大会戦で大敗しても、政治危機が起こらず、経済負担を気にする様子もない帝国と共和国。

 アニメを見た。原作を読んだ。面白かった。
 どのあたりに惹かれるのか。
 気のついた一つの理由は、彼らの銀河帝国が、多くの問題を解決した社会であること。ここには、貧困の均衡はない(か、あっても誰も問題にしない)、人口爆発(とその後の高齢化社会)の危機はない、エネルギー枯渇の可能性もない、国内政治は安泰でどの星も帝国の徴税と徴兵に不満を漏らさない、科学技術の発達は非常にゆっくりとしていてどの世代もテクノロジーに取り残される恐怖がない(ということは教育の水準を維持しやすく、機会均等を保障されているのではないか)。星と星の間でも富の偏在や価値の差異というのはなくて、どこの星の商品であろうと使用価値がそのまま交換価値であるらしい。これは共和国もフェザーン自治領も同じで、長期に安定化した社会と銀河系全体を包括する貨幣経済が成立しているのだ。それでいて19世紀を思わせる農業国家(星)が多いように思えるのはご愛敬。
 スペースオペラに政治・経済を持ち込んだのは慧眼というべきか。とはいえ、いくつかの瑕疵もでてきて、後だしで言うと、いくつかの大会戦で大敗した共和国でも、政治危機が起こらず、経済負担を気にする様子もなく、大敗の数ヵ月後にはほぼ同規模の艦隊を作り、徴兵を完了しているなどのところ。うまく運営している国家(群)だなあ。
 帝国にしても、経済不安が腐敗貴族の財産没収とその再配分で乗り越えられるというのもね。短期間の効果しか得られないでしょうに。このあたりは楽天的だな。

  

 あと、自分が読んだのは徳間ノヴェルスの新書版。そのあと、徳間文庫や創元推理文庫などに版を変えている。どうしたことか、これらの文庫サイズになって文字が大きくなると、とたんに読む気が失せてしまう。改行の多さとか、字面の軽さとか、文章の軽さとか、そういうことに目が向いてしまうからだろうなあ。ノヴェルス版の文字の小ささやかすれ具合なんかがそのあたりを隠していたのではないかと乱暴や八つ当たりをメモしておく。