odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

菊地秀行「吸血鬼ハンターD」(ソノラマ文庫)

 「辺境の小村ランシルバに通じる街道。吸血鬼から“貴族の口づけ”を受けたドリスは、吸血鬼ハンターを探していた。西暦12090年、長らく人類の上に君臨してきた吸血鬼は、種としての滅びの時を迎えても、なお人類の畏怖の対象であり、それを倒せる吸血鬼〈バンパイア〉ハンターは、最高の技を持つ者に限られていた。そしてドリスが、ついに出会ったハンターの名は“D”、旅人帽を目深に被った美貌の青年だった──。(裏表紙のサマリ)」

 遠未来のしかし現在よりも退行して中世風になった世界を描くSFと、吸血鬼伝説と、ソード・アンド・ソーサリーをごった煮にして、少年小説の味付けをしたシリーズ第1巻。第1巻は1983年の初出。一時期の流行ののち忘れられた「吸血鬼」を再発見する端緒になった記念すべきシリーズ、という位置づけらしい(笠井潔「ヴァンパイア・ウォーズ」の解説による)。
 この本には、「ドラキュラ」にかかわる固有名詞がいくつも引用される。リイ(稀代のドラキュラ俳優クリストファー・リー)とかラミーカ(逆に読むとレ・ファニの創造した女吸血鬼になる)とかミナ(ストーカー「ドラキュラ」のヒロイン、ミナ・ハーカー)とか。あれ、そんな程度だっけ。作者が文字の向こうでニヤリ、それに気づいた俺様読者もニヤリ。
 文学史を横に置いておくとすると、内容は天才的な剣士である「D」がドリスに敵対する「貴族」や村人や流れ者の殺人者(しかもミュータント)を次々と切り捨てていくお話。Dは密命をおびた流れ者で、行く先々の女と行きずりの恋愛関係になる。しかし、恋愛が成就することはなく、使命を達成したDは村を離れる。彼を慕う少年は、彼との出会いをきっかけにして「大人」や「男」になっていく。というわけで、新旧さまざまな意匠をつけた、実は任侠小説なのであった。
 「シェーン」「荒野のストレンジャー」「ペイルライダー」のように、流れ者が田舎町に住み着いて、その場所の悪を退治し次の旅に出る。流れ者は生きている者なのか死者なのかよくわからないというというのがあったなあ。「用心棒@黒澤明」「木枯し紋次郎」もその系譜。あと高橋留美子の短編連作「人魚」シリーズもひとところに定住できないものの遍歴者の冒険譚だった。