odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

田中啓文「銀河帝国の弘法も筆の誤り」(ハヤカワ文庫) 先行する作品のパロディになっているので、SF史に詳しいと二重に楽しめます。

 タイトルは、筒井康隆星新一がやっていたことわざの無理やり合体。本文は、ダジャレ落ちのための無理やりな展開、グロテスク描写と、漫才の会話。強烈なにおいのするくさやの干物ですか。好悪が極端にわかれるだろう。まあ、難しいことは考えず、2時間を楽しむにはいいんじゃないすか。久しぶりに、本を読んで笑ったし。
 先行する作品のパロディになっているので、SF史に詳しいと二重に楽しめます。後ろは元ネタと思われるもの。
「脳光速 サイモン・ライト二世号,最後の後悔」  ・・・ フレドリック・ブラウンの短編(「未来世界から来た男」所収)。ヴァン・ヴォークトの「ビーグル号」。映画「エイリアン」。ベリャーエフ「ドウエル教授の首」。
銀河帝国の弘法も筆の誤り」  ・・・ アシモフの「銀河帝国の興亡」シリーズ。筒井康隆日蓮が現代に蘇った、という趣向の短編があったな(「末世法華経」)。
「火星のナンシー・ゴードン」  ・・・ タイトルはバローズの火星シリーズから。
「嘔吐した宇宙飛行士」  ・・・ スティーヴン・キングの「スタンド・バイ・ミー」の挿話か?ハインラインの「宇宙の戦士」、オースン・スコット・カード「エンダーのゲーム」。
「銀河を駆ける呪詛 あるいは味噌汁とカレーライスについて」  ・・・ 伝言ゲームで文章がメタメタになるのは、パタリロの初期作品にあったなあ。最後の誰をも脱力させるダジャレは、高橋留美子うる星やつら」に先行例がある。
の5本を収録。複数の書評が本文にはいっているのは、赤瀬川源平の「櫻画報」とか。あと、表紙のパルプマガジン風のイラストとそれに付随するエッセイもね(ああいう薄着の美女がBEMに襲われるイラストを描いて子供を育てた画家がアメリカにいる。荒俣宏「希書自慢、紙の極楽」を参照のこと)。
 小説が読者の期待を裏切るように書かれていて、おまけに本という形式を脱臼しようとする実験も行っている。