odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

溝口千恵子/三宅玲子「定年前リフォーム」(文春新書)

 バブル経済の破綻によって、建築業界はダメージを受けたのか、現在ある家を作り直すリフォーム番組をたくさん作るようになった。たしかに一軒の家を作るよりは安上がりであり、最近の建築技法を駆使し、多くの建築家のデザインにより新築と見まがうばかりの家を作ることができる。その手の番組はおもしろいので、たくさん見ている(現在の自分の年齢であれば、そのような新築家屋ないしリフォーム家屋を作る場面に直面しているだろう)。できた家には家族の歴史やそれぞれの思いが詰まっていて、興味深い。にもかかわらず常に不満に思うのは、新たに作られた家はどうやらせいぜい10年ほどしか使用期間を持っていないように思えること。多くの場合、成長するこどもにどのように対応するかが主題になっていて、では彼らが独立した後、残された親はどのような生活をするのか見えてこない。その結果、あと10年もしたら再度リフォームをすることになるのではないか、その代金を支払うには彼らの家族の生活設計は貧弱にすぎるのではないかと思うことになる。
 この本の主題は、子供が独立し、二人で老後を過すことになる夫婦を対象にしたリフォームだ。この主題はこれから切実さをまして、リアルになっていくことだろう。ポイントは
・自分の老いにしっかりと直面せよ
・自分の言い分をしっかりと施工主に伝えよ
・地域と自分との間にどのような関係をもつか考えよ、というところか。
 隠れているのは、リフォームもピンからキリであるのだろうが、車椅子対応のバリアフリー家屋を作るには数千万円の費用がかかるから、自宅ないしマンションのローン支払を完了してなおかつその程度の資産を用意せよ、ということ。
(細かいアドバイスでは、家族の人数が少なくなるから減築することはよい選択肢、夫婦それぞれのプライバシー空間を用意、寝室にトイレを作ると便利、などが参考になった。その前提としてバリアフリーと断熱と震災対策が不可欠。)
 結局として、この本の提案が対象になるのは、それなりの資産をもっている富裕層ということになる。それは今後の状況をみたとき、極めて少数のものになるのではないかと思う。
 自分のような独身であると、夫婦二人の老後というのは想定できないことであるので、仮に独居用の家屋を新設ないしリフォームする際のテクニカルな指標には使えるとしても、老後を生きるやり方をここから見出すことは難しい。自分のようなものは永井荷風のように場末のアパートで孤独死を迎えるだろう。そういう覚悟を持つようにしてはいるものの、現在の資産を有効に使って孤独ではない老後を過ごしたい。
 とすると、自分にとっては別の老後、余生を設計する必要があり、漠然と考えているのだが、グループ・リビングという独身者による共同生活を構想することになるだろう。自分の独創と思っている考えであったが、もう1980年代からイギリスなどで実践され、日本でもそのような試みは行われているらしい。