odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

小野善康「景気と国際金融」(岩波新書)

 前著「景気と経済政策」は総論と国内の経済にフォーカスしていたので、こちらでは国際経済を取り上げることになる。

第1章 国際金融 ・・・ 国際金融にはモノやサービスを販売・購入するフローと、株券や債券を投資・購入するストックがある。この二つは区別して考えるべき。前者のフローでは販売/購入と同時に決済されるので、金の動きが現れ、国家全体としての収支が変化する。で、このフローの販売/購入は国内の<需要側>が考える商品の国際競争力と資産をどのように使うかの時間選好に大きく依存している。この国では、時間選好が高い(資産を保有してモノやサービスの購入を後回しにする)から経常収支が黒字になる。後者のストックでは、決済にあたり、円(という国内通貨)が販売/購入先の通貨と等価交換される。なので、資産の移動(海外に工場を作るとか、外国の債券を購入するとか)があっても国内の資産の総量は変わらない(上記のアクションを行うと円が減るが、代わりの通貨が手元にある)。ここらへんを混在して考えると、間違い。あと、一産業の黒字は別の産業の赤字になるのであって、外国資本との競争ではなく、国内の別産業との競争がある。なので、経常収支の黒字/赤字には意味はない。

第2章 為替レートと景気 ・・・ 為替レートには、絶対水準=為替レートと変化率のふたつの指標がある。前者はフローに関係し、後者はストックに関係。さて不況において、国内の消費水準が低下している→物の価値の低下=デフレ→相対的な貨幣価値の上昇=円高が進む。デフレにより輸入が減少して、経常収支が黒字→円高が進む。したがって、物やサービスの国際競争力が低下し、さらに不況が進行する。また、円の総体的な価値上昇により、日本の株券・債券などの利子率が低くなり資産が売られ、さらに円高が加速する。こういう説明。このときに、1)外国の消費拡大に期待してもダメ→外国の国内生産が上昇するので、さらに円高が加速、2)供給のリストラ、公共投資の削減は最悪の政策→失業を増加し、さらに生産力を低下することになるから、3)倹約、節約して不況をやり過ごせというのもの誤り→需要を増加しないからさらに不況を長引かせる、とのこと。

第3章 経済政策の国際波及 ・・・ すごくシンプルにまとめると、この国には対外資産がたまっていて、しかも需要抑制=貨
幣退蔵の意識があるから不況になっている。なので、その条件においては、保護関税はだめ→輸入が減り経常収支の黒字増により円高進行で不況が継続、経済援助はOK→公共投資の投資先を国外に変えただけで、投資先の需要増につながればこの国の輸出増になる、という。あと、国内政策では公共投資が必要で社会的共通資本への投資であれば、未来の人にも有効活用可能。ここまではOKであるけど、ではどのような投資がよいのかは具体例がなく、投資先をこの国の政治家や官僚が決めてよいのかというのに答えがない。科学政策のことを思い出しても、1980年以降に第5世代コンピューター、国内OS開発、超伝導PHS、バイオテクノロジー、宇宙開発など国家のプロジェクトがいろいろあったけど、収支の点では死屍累々。その轍をまだ踏むのかなあ。社会起業家NPOの起業支援に特化して、アイデアは民間にまかせたほうがよいのでないかい。その社会企業家やNPOには2000年当時には政治家も官僚の冷たかったそうだからなあ。

第4章 国際化するバブルと景気 ・・・ 株価は企業の実態価値を反映していると考えるのが<供給側>とファンダメンタリズム。<需要側>からみると、実態価値と関係なく、資産価値が膨れ上がったり縮小することがある。そのときの価格をつけるもとは人々が株価や債券などに見出す「将来価値」。ここが大きくなるとバブルで、縮小すると株価低迷。あと、対外資産を金融資産の投資としてもつのは危険。なぜなら国内のバブルでは国全体の資産に変化はないが、海外のバブル崩壊では国の資産を減少させるから(株安により外国の借金を棒引きすることをおなじ効果になるので)。具体的には政府と国家銀行(と呼んでよいのか?)の保有する外国為替と外国債券が減少する(のでよいのか?)。とはいえ対外投資をやるなというわけではなく、自社や自国の生産性を高める投資であれば積極的であってよい(株券や債券を購入するのではなく、外国の事業に直接投資をするとか起業しろとかそんなやりかたかな)。

第5章 為替管理と円の国際化 ・・・ 円の国際化についていうと、日本の国債を販売する努力はしていて、実際に購入されている。問題は、貿易の経常収支が黒字であることで、この決済のために、外国は購入した日本の国債を売って円に換え、それを決済にあてる。そのために、外国に放出した円は経常黒字のために還流される。なので、外国では円は常に不足。そのために基軸通貨になれない。ドルが基軸通貨になるのは、大量の国債などを販売し、かつ経常赤字でドルが還流しないのに、その国の経済が問題ないとみなされているため。さて、これは国の在り方としてOKなのだろうか。


 著者の主張はふたつで、1)これまでの経済学は<供給側>で問題設定していたので現実把握には不十分、<需要側>の経済学が必要。2)経済のフローとストックの両方を見なさい、3)「好況」の経済学はあるけど、「不況の経済学」は不十分なので、もっと研究すべし。いや3つの主張だ。
 勉強になりました。でも、具体的にどのようなアクションをするのがよいのか。需要側はどういうことを考えて消費を増やせばよいの(資源とかエネルギー不足にどういう態度が正しいのかしら)、政府や行政はどのような公共投資をすればよいのかしら。そこらへんのイメージがわかないなあ。なんとなく、市場が調整するから需要側は好き勝手でよいと、俺様定義で読んでしまいそう。さて、どうするのがよいのかしらねえ。