odd_hatchの読書ノート

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岩田規久男 「金融入門(旧版)」(岩波新書)

 ここでは、モノやサービスの販売が行われる商品市場ではなくて、資金や貨幣の売買が行われる金融市場の仕組みと政府や中央銀行のできることを解説している。金融市場は目に見えにくい市場であるので(それこそ個人投資をしたり、企業の経理や財務担当にならないと、市場に参加することはめったにない)、身体的な理解が難しい。この本では著者の考えを提示することより、教科書のような基本事項の説明に徹しているので、タイトル通り「入門」にするのにふさわしい。
 なお、自分が読んだのは1993年初版の第1版。のちの1999年に改定されたので、そちらを読むことを薦めます。

第1章 貨幣と日本の決済システム ・・・ 貨幣の役割と中央銀行による貨幣量の調整、銀行による預金創造について。貨幣とは何かについて、岩井克人貨幣論」のような議論をしていなくて、常識的な説明で完了。金融機能を知るのに、貨幣の幻想はなくてかまわない。

第2章 資金の貸借と金融 ・・・ 事業を行う資金不足主体は余剰主体から貨幣を借りることで事業が継続できる。そこには信用リスクがあるから個人や企業が直接貸し出しをするのは危険。そこで各種金融機関が代行する。この国では余剰主体は個人の預金で、法人・公益・海外は資金不足主体になっている。この前の戦争のときに貯金をしようというのが(それ以前から倹約と貯蓄が美徳とされてきたわけだが)、この国の人々の性向になっていて、それが経済発展に役立ってきたわけだ。

第3章 金融機関と金融仲介 ・・・ 金融機関には、政府銀行・民間金融機関・公的金融機関がある、それぞれ業務を分けている。金融機関があるのは、情報生産・債権管理・リスク負担機能があって規模が大きくなることで生産性とリスク回避が生まれるから。(かつて自然災害復興で直接ファンドなどに投資できないかと夢想したことがあったが、個人だと情報収集に限界があって生産性の高い投資が難しいのがわかった。ここはその種の仕事に慣れているプロを経由して、大規模投資のいったんを担うほうがよりよいだろうと思うようになっている。)

第4章 資金の循環と金融市場 ・・・ 資金不足主体が貨幣を調達するには、直接金融と間接金融がある。とはいえ資金不足主体が直接余剰主体から貨幣を調達することはなくて、銀行や証券会社などの金融機関を通じて行う。こういう資金調達の市場も短期金融市場と資本市場がある。株の売買は後者で行わなれる。(直接金融には株の発行、事業債・CPの発行など多数の方法がある。でも、それには調達資金の使い道や過去三期の財務諸表や中長期計画など膨大な資料をつくらないといけなくて、資金不足主体の作業は大変なんだよね。大変さは、池井戸潤下町ロケット」(小学館文庫)にちょっと書いてあったな。)

第5章 金利と資産の価格 ・・・ 資金の貸し付けに応じて利息・金利・プライムレートが発生する。その利率は、貸し手の将来予測や見込などの期待で決まり、市場で調整される。と同時に、インフレや不況が到来しないように国や政府の管理がなされる。

第6章 金融の自由化 ・・・ 今回読んでいる1993年版では自由化が進みつつあるという記述。1999年09月の改定でこの賞は 「第6章 デリバティブとリスクの移転/ 第7章 金融ビッグバンと金融システムの安定化」に拡大した。この間に金融自由化が進んだ一方、破たんする銀行が出て、モラルハザードが発生したので、金融政策が厳しくなったなどの記述が増えたのだろう。新版を読むことを薦めます。

第7章 金融と景気と物価 ・・・ 金利の変動は総需要の変動をもたらし、それを通じて実質国民所得や物価に影響を及ぼす(から国・政府・中央銀行金利の調整に敏感)。この章は小野善康「景気と経済政策」(岩波新書)あたりと同じなので省略。

第8章 金融政策とマクロ経済 ・・・ マクロ経済に関係する金融政策の目的は、物価の安定・適正な雇用・適正な経済成長・国際収支の均衡などがあるが、物価の安定と失業・経済成長はトレードオフの関係にある。前者よりも後者が大切と考えるので、ある程度の(2-3%)の物価の上昇は許容される。という具合に1993年にしてリフレ政策を提言していたんだ! 政府と中央銀行ができる金融政策はいろいろあるが、マネーサプライの変動を小さくすることは重要。1960年代や1980年代のインフレとそのあとの不況の原因は、マネーサプライの大きな変動(-0.6%〜14%)にあった。特に1980年代後半のマネーサプライの大きな上昇率はバブル経済の原因になっている。


 わかりやすい説明です。上のようなまとめで貨幣の流通と、企業の資金調達の方法と、中央銀行の金融政策と、金利の仕組みを覚えよう。いずれでもさまざまな仕組みがあるのだが、それを覚える必要はなくて、金利の変動が景気や物価にどう関係するのか、調整インフレが必要なのかの理屈がわかればよいと思う。その先は、また別の本で。
 なお、この本は国内の金融市場のことしか書いていない。貿易や為替、グローバル資本の移動などの国際金融が抜けているので、それは同じ著者の 「国際金融入門」(岩波新書)で補完しよう。

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2013/06/05 堀内昭義「金融システムの未来」(岩波新書)
2013/06/10 小野善康「景気と国際金融」(岩波新書)
2011/05/24 高橋亀吉/森垣淑「昭和金融恐慌史」(講談社学術文庫)