odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

岩田規久男 「国際金融入門(旧版)」(岩波新書)

 国際金融入門(旧版)では扱わなかった国際金融の概論。国際収支と為替レートの話にフォーカスしている。
 なお、自分が読んだのは1995年初版の第1版。のちの2009年に改定されたので、そちらを読むことを薦めます。

序 章 安定的な国際金融を求めて ・・・ 新版で追加された。旧版なので読んでいません。
第1章 国際金融と外国為替  ・・・ 国内金融との違いは、国境を越える取引で、異なる通貨の交換であること。輸出入の取引決済や資本取引に使われるし、金融資産の取引にも使われる。後者を外国為替市場と呼ぶ。通貨間の取引レートは、国内物価や経済指標に大きな影響を及ぼす。

第2章 国際収支と国際金融 ・・・ 国境を超えるものや金のやりとりは、国際収支にまとめられる。これはモノとサービスなどの経常取引と、資本取引と、政府日銀などの金融勘定にわけられる。国際収支は「赤字」「黒字」という表現が使われる。フローの国際金融では経常収支の黒字国から赤字国に資金を融通することで、黒字国は対外債権が増加、赤字国は対外債務が増加している。ストックの国際金融では資本収支の構成を変化させても、資本の流出入は起こさない。

第3章 為替相場制度と為替レート ・・・ 為替レートは、長期的には貿易財で測った購買力平価に近づき、短期・中期的には期待実質金利差や累積経常収支残高に依存すると考えられる。変動の要因は、国家間のインフレ率の差や長期債の金利差などによると考えられる。しかしファンダメンタルズ(購買力平価、期待実質金利差や累積経常収支残高など)に基づかない期待や予想で為替レートが変わることがあり、これをバブルという。国ごとの生計費の購買力平価を比べると、格差がある。本来は為替レートで平準化されるはずであるが、そうならないのは貿易財と非貿易財(主にサービス業)の生産性に差があって、生産性の低い非貿易財の賃金が上昇し価格に転嫁され、生計費を押し上げるため。

第4章 為替レートと国際収支 ・・・ 経常収支が長期的に赤字になる理由は、民間が高消費・低貯蓄である、財政赤字が大きいが考えられる。1990年前後の日本の財政黒字は社会保障基金の黒字に理由がある。これが赤字になると経常収支が赤字になる可能性がある(2000年以降赤字に変化)。円高・ドル安の為替レートの変化はすぐに調整されるように働くはずであるが、実際には異なる。短期的には輸出が増え、中期的には輸出入が減少して経常収支が黒字が減少し、失業が増加。長期的にはリストラや輸入の増加で失業率が低下し為替レートの影響をうけなくなる(でもこのモデルは国内に生産機能があり、貿易財の生産性が上昇する場合だよな。それがないときは? 非貿易財の生産性上昇で対抗できるのか?)。」

第5章 財政金融政策と国際金融 ・・・ 公共投資は波及効果があるが、変動相場制になったことと国際間の資本移動が自由化されたことで効果が小さくなった。公共投資による生産性の上昇が円高ドル安になり、効果を相殺するから。なお、変動相場制と国際資本移動が自由な経済では、経常収支から独立に国内経済を安定(雇用と物価の安定)させる記入政策が可能になる。

第6章 為替リスクとデリバティブ先物為替・オプション・スワップ―  ・・・ 為替リスクを回避する金融取引に、先物為替予約・通貨スワップ・通貨オプションなどのデリバティブがある。

第7章 国際通貨制度(1)―固定相場制― ・・・ 金本位制では経常収支の結果に応じて貨幣供給量が自動的に決まるので金融政策を独自に国がとることができない。国際収支は自動的に均衡するが、その間に雇用が不安定になり、景気悪化につながる(貨幣供給量が減ると自動的に金融引き締めになるので)。第二次大戦後は固定相場制のブレトンウッズ体制になる。この仕組みでは、国内均衡と国際均衡を調整することができず、アメリカのインフレが各国に波及していった(1960年代から)。1973年のニクソンショックでブレトンウッズ体制は崩壊。

第8章 国際通貨制度(2)―変動相場制の経験と評価― ・・・ 変動相場制は予想されたほどの効果はなかったが、当面は最前の通貨制度といえる。


 国際収支と為替レートにフォーカスするとはいえ、その均衡の理屈や政府・中央銀行の金融政策を考えると、国内経済も知らなくてはならなくなる。王いう話の拡げ方がうまい。変動相場制の国際資本移動ではヘッジ・ファンドの悪が叩かれることが多いが、そのような時事問題でも理論的な解説をしている。なので、この本の知識を持つことで、ダメな経済学をスクリーニングすることができる。とはいえ、為替や経常収支の理屈はなかなかわかりずらいものではあるのだが。
 本書が1995年に書かれてから後のできごとというと、不況にもかかわらず円高ドル安が続いたこと(本書ではアメリカのインフレと日本のデフレによる購買力平価の調整で為替レートが変動したと説明される)、途上国で通貨危機が起きたこと、途上国のいくつかが経済発展をして先進国並みの信用を得るようになったこと、一方この国の不況が終わらないことなどがある。それらを勘案して、2009年に改定された。改定後には、トピックが書き換えられたものもあるだろう。でも理論編は変更不要なのであって、この著者の入門書は素人にはありがたく、信頼できる。

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