odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

伊藤修「日本の経済」(中公新書)-2

2015/03/11 伊藤修「日本の経済」(中公新書)-1

 後半は、経済の制度についての現在(2007年)のまとめ。1945年に終わった戦争で、この国の仕組みのかなりがゼロベースで構築しなおすことになった。そのとき、この国は小資源・生産財の不足・投資の不足・過剰な労働力・政府の指導力の縮小などがあった。そこから経済の再建、生活財の充実を目的にする仕組みつくりが行われた。ここにある金融政策、税金制度、社会保障制度、社会的公共財への投資方法、企業の経営と労使関係などなど。それは1950-60年代の高度経済成長期にうまく適合して成功した。しかし、経済成長の停止、高齢・少子化などの基礎条件が変わることによって、この仕組みは齟齬をきたすようになる。20年くらいはつぎはぎでどうにかしてきたが、どうも仕組みそのものがうまくいっていないことが露呈したのがバブル経済崩壊後。そのあとの20年間は、直面する問題の対応に追われて、根本的な改善をする暇がなく、ますますおかしくなってきたということになるのかな。

国際経済関係 ・・・ 国際経済学に関する講義。以下は間違った理解、統計を取ると誤りであることがわかる。「海外移転によって国内産業は空洞化する(一部の産業はそうでも、ほかの産業が埋める。問題は労働力の移転が簡単ではないこと)」「世界大競争が起こる(国際総生産のうち輸出入の占める割合は低い。国内需要と供給が経済のほとんど)」「貿易黒字は国の勝ち、だから増やせ(貿易収支は勝ち負けでも損得でもない)」「内外価格差があり、国際競争にない産業はたるんどる(品目で差があるし、為替レートで変わる。何と比較するかで見方は変わる)」など。クルーグマン「良い経済学悪い経済学」も併せて読むとなおよろし。
日本の産業 ・・・ 産業を見るときの視点として、1)産業構造の変化(第1次産業から第3次産業への変化、とはいえ「サービス業」も内製していたものが外部化された場合もあるので、単純にこの国のサービス業は不効率というのはよくない)、2)企業間関係(アメリカはずっと内製、この国は独特の下請けや系列がある。一長一短があることに注意。あと独自技術をもつ中小企業群の優位性として東京大田区東大阪市をだしているが、2012年にはそれも厳しい)、3)集中と競争、および国際的巨大統合(集中は金融機関、競争は通信サービスと通信機器、国際的巨大統合は鉄鋼と自動車)がある。
日本の企業経営 ・・・ この国の企業経営だけを見ても特長は見えてこない。比較の対象はたいていアメリカだが、英米型と日欧型を規定できるくらいの共通点がドイツその他の西洋の会社に見られる。そのうえで、簡単にまとめると、職能の多様性を要求、OJT中心、ジェネラリスト志向、ジョブローテーション、現場の裁量を大きく取る、一方で権限が明示されていなく上下の関係と横との比較で決まるという責任のあいまいさがある。なお、バブル前後で経営者の権限は大きな違い(バブル前は監視機能がなく、その後はコンプライアンスディスクロージャーが要求される、など)があるのに注意。
日本の雇用と職場 ・・・ 終身雇用、年功賃金、企業別組合という日本の特徴は別にユニークではないし、中小企業にはあてはまらない。現代のまずいところは、職務権限があいまいで集団の帰属意識が必要、脱落しないための競争があるので、正規雇用者は長時間労働、企業拘束、未払い賃金の問題があり、資本の力が強いので異動・転籍を拒否できない。女性が出産育児で雇用から外れると生涯賃金に大きな差が出るので出産へのインセンティブが働かない。非正規雇用が多くなり、最低限の生活ができない層が生まれている(ガルブレイスの「豊かな人々」は彼らに無関心。これらの弱い人々の意思は政治に反映されない。家にいることのできる層の意見だけが政治に反映される)。
日本の財政と社会保障 ・・・ 他の国と比較するとき、日本は「小さな政府」であり、部門によっては小さすぎる自由主義経済のアメリカでも人口比率の公務員数は日本の2倍)。アメリカはサービス業に公務員を割り当て、この国では土建事業に予算の多くを割いている。財政赤字と公債については、公債の変換先は同じ国民であり、資産とみなしてよい、公債は一度に清算する必要はないので、返済不能にならなければよい。そのためには公債の使い道を子孫の資産になるような事業に投資すべきで、使われない公共財や消費拡大策に使うのはダメ。あと官・財・政の鉄のトライアングルで収奪されない監視も必要。税金については国際比較でみると、個人も法人も税金負担は軽い。水平的公平と垂直性公平ができていないので負担感が大きくみえる。脱税しやすい環境にあるので、投資が必要。同時にサラリーマンの税金の実感ができるようにすべき。社会保障広井良典「日本の社会保障」(岩波新書)で詳細をみるのでここでは省略。
日本の金融 ・・・ 著者の専門がここにあるせいか、問題の整理がうまくいっていない(20ページにまとめるには情報がありすぎる)ようなので、岩田規久男 「金融入門」(岩波新書)などで補完。


 1992年からの不況で、われわれはさまざまなところで苦悩しのたうちまわっているのだが、この本には希望も絶望も書かれていない。それらがないのは学問であるからで、いったん個人的な損得とか善悪とか、思い込みを排除して、できるかぎり「客観的」になろうとしているから。そのおかげで、問題がクリアになり、解決可能なところと困難なところ、個人や企業の自由に任せてよいところ社会的同意を得ないといけないところ、直近の問題と将来の問題、などが切り分けられる。そこから具体的なアクションプランが生まれるだろう。なので、行動する人の本で希望や絶望(こちらを説く本には近寄らないほうがよい、たぶん読者の金で儲けようとしている)を感じ取ればよい。しかし、学問は気分や心理を意図的に無視しているので、読者の心に寄り添うことはない。そういうものだ、という理解で、実用に役立てればよい。
 一つの企業レベルの不都合、不具合だと、経営者を変え、事業内容を立て直し、リソースを効率的にすることでどうにかなる。ときにはダメなこともあり、企業がつぶれることがある。でも国家の事業というか国民へのサービスということになると、規模が巨大で(でも財務諸表は作られないという不思議)、関係者もたくさん(GMトヨタがたくさんの社員を抱えているといっても、公共事業の関係者はもっとでかいだろう)、利害の関係も千差万別。その異論を聞き(著者が嘆いているように、政治への圧力団体は経済学の基本知識に欠けているように思える)、調整する作業は大変(政党は調整者であるより、特定利害の代弁者になっているし、官僚は上下の関係と横との関係で権限が決まり、無責任な体系に慣れている)。というわけで、まだこの混乱は続くのだろうな。とりあえず自分はこの種の啓蒙書を読んで、ゆるぎない知識を紹介することに徹しよう。イデオロギストは間違っているといい、相対主義者はすべての主張は等価値というだろうけど。多くの人の検証で正しい確度の高い知識はあるのだよ、と。まあ、それくらいにおかしな言明、嘘、脅しが流通しているのだよね、経済本には。大量のビジネス本、経済本があるけれど、まともな主張をしているもの(ここでいうまともなは経済学の基本にあっているということ)はまずない。