odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

レックス・スタウト「ラバー・バンド」(ハヤカワ文庫) 19世紀末の愚連隊輪ゴム団の因縁が1936年のニューヨークで爆発。

 沿海物産会社で3万ドルの現金が秘書室から消えうせた。副社長は同社の電信係の若い女がやったことだといい、社長はそれをかばう。うちうちで処理したいので社長ペリーはウルフを尋ねた。アーチーに予備調査をさせてから応えようという返事をするところに、その電信係クララ・フォックスが数人の男女を引き連れてウルフに依頼する。彼女は、自分に窃盗の容疑がかかっていることを知らなかった。ウルフは奇妙なことに1ドルの報酬でクララの仕事を引き受ける。これも奇妙なことにアーチーはクララに一目ぼれ。
 さてクララの要望した話はなんとも奇妙なもの。1896年にどこかの町で、ゴムのコールマンなる男が愚連隊を率いていた。あるとき殺人で絞首刑になる男から自分を逃がしてくれれば、金をやる、俺は英国の貴族なのだ、と愚連隊に依頼した。男は逃げ他が、約束は果たされない。愚連隊、当時の別名は「ラバー・バンド(輪ゴム団)」の一員だった男は第1次大戦の戦地で妻に手紙を書いた。妻は開封しないまま娘にわたし、読んだ娘すなわちクララは当時の輪ゴム団の仲間を集め、貴族の男を捜すことにしたのだ。ようやく輪ゴム団の末裔を見つけ、英国貴族もめぼしがついたので更なる調査を依頼したいという。

 このような40年前(初出は1936年で、スタウトの第3作)の因縁話が事件の遠因になっているところがいかにも古風な探偵小説。しかし、以上の話は会話で説明されるだけで、物語は1936年のニューヨークを舞台にしている。
 ウルフの事務所を出た輪ゴム団の一人が射殺される。同時に沿海物産会社の窃盗事件も捜査が進む。というわけで、ウルフの事務所には入れ替わり立ち代り、人が訪れ、話をしてはでていく。冒頭から150ページは時間が発生した初日の午後から深夜にかけて。物語は事務所から一度もでない。アーチーも今回は外に出る機会がない。まあ、一目ぼれの娘が妹の預かり物のネグリジェに、彼のガウンを着るしと、気が気でないからなあ。ソール、ジョニー、フレッドら、ウルフの雇う私立探偵がたくさん出てくるが、活躍の割りに印象が少ない。まあ、美人のクララを気にかける男がいろいろやってくるからねえ。
 物語3分の2あたりになって、英国貴族が判明するものの彼はすでに約束の金を支払い済みということがわかる。総額はたいした金額になるのだ。そして輪ゴム団の中の偏屈な老人が、勤務先である夜警をしている最中、射殺される。しかもそれはウルフに電話をかけている最中で、ウルフとアーチーは射撃音を電話越しに聞いていた。
 間羊太郎「ミステリ百科事典」(現代教養文庫)にも紹介された大トリックを使った探偵小説巨編! といいたいところだが、トリックはまああの時代でなら納得可能という代物。トリックに使った小道具が大胆に書かれていることに注目。そんなに目立つところにあっていいの?と驚くくらいの隠し場所だ。それより、過去の因縁譚と現在の現金紛失事件が最後にひとつにまとまるプロットに関心することにしよう。アーチーの活躍と皮肉が少なく、チーム・ウルフの仕掛けるコンゲームがないので、すこし物足りなかった。1936年の第3作。

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