odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

ロバート・フィッシュ「シュロック・ホームズの冒険」(ハヤカワ文庫)

 名探偵シュロック・ホームズはベイグル街221B番地のアパートにワトニイ博士と同居している。今日も、依頼人の持ち込む事件を迷宮入りさせるのに余念がない。それでいて、底抜けの善人たちはシュロックの推理にやんやの喝さいを送る。
 いわずとしれたホームズの贋作。それこそホームズの短編雑誌連載中からパロディが作られ、現在にいたる。多くの作家が手掛けている中、質量ともに最高峰を誇るのがこのフィッシュの作によるもの。

アスコット・タイ事件 (The Adventure of the Ascot Tie) ・・・ 最近叔父の挙動がおかしい、こんな手紙を出しているのです、と令嬢が暗号じみた手紙をもってきた。ホームズはさっそく暗号を解読して大儲けする。モンティ・パイソンで知ったのだが、ロンドンにはライミングスラングという符丁隠語つうやつがあってだな(第4シリーズ、第3話)。
赤毛の巨人 (The Adventure of the Printer's Inc.) ・・・ 競馬の賭け屋がデマのチラシで迷惑していると相談にきた。チラシにある講演会に行くと、そこではなんと相手の手札がわかっているカードゲーム場。そこに宿敵マーティ教授を発見したので。ダジャレが頻出するので、ちょっとおいらたちにはわかりにくい。
アダム爆弾の怪 (The Adventure of the Adam Bomb) ・・・ マーティ教授の弟子が新型爆弾を軍に売り込みに来た。胸騒ぎのするシュロックの兄クリスクロフトが捜査を依頼した。掃除婦に化けたシュロックは、研究所からE=MC^2の暗号を入手する。
黒眼鏡の楽団 (The Adventure of the Specialed Band) ・・・ 麻薬を病院に卸す会社の業績が悪化したので、倉庫をマーフィー氏に貸すことにした。奇妙なことにマーフィー氏は数面の仲間とバンド演奏をしているに過ぎない。なにがあったのか、と調べると、バンドのメンバーに宿敵マーティ教授を見つけた。シュロックはさっそく犯罪の防止に乗り出す。
奇妙な手紙 (The Adventure of the Stockbroker's Clark) ・・・ 自動車運転の好きな株式仲買人が奇妙な手紙をもってきた。傲慢で傍若無人な態度にシュロックはむくれたが、暗号には興味をひかれた。そこで、独自の捜査を開始。事件には無関係であることがわかったのだが。
消えたチェイン=ストローク (The Adventure of the Missing Cheyne-Stroke) ・・・ 英国の大学のボートチームのメンバーが消えてしまった。明日は「鉄のカーテンの国」チームとの対抗戦というのに。消えたメンバーの部屋で見つかった手紙から、シュロックは恐るべき誘拐団の暗躍を発見する。しかし、時計をなくしてしまってね。
画家の斑紋 (The Adventure of the Artist's Mottle) ・・・ 金に困ったシュロックは、スコットランド人の館の謎を解いてくれという依頼で出かけることにした。そこで目にしたのは、芸術破壊行為。その憎むべき犯罪者のプロファイリングを行う。ちなみに、その絵を描いたのはパッソ・ピカプロという名前。
ダブルおばけの秘密 (The Adventure of the Double-Bogey Man) ・・・ アメリカのケネバンク将軍が突如失踪。クリスクリフトは苦り切ってシュロックに助けを依頼した。手がかりは、彼の残したわけのわからない手紙だけ。スラングだらけの文章の意味は?
罠におちたドラマー (The Adventure of the Snared Drummer) ・・・ 新作ミュージカルの準備に忙しい興行主から、総譜を暗譜している唯一のティンパニ奏者(?!)が失踪したので見つけてくれと依頼。手がかりは、彼の落とした一通の手紙。それもまたスラングだらけで・・・
贋物の君主 (The Adventure of the Counterfeit Sovereign) ・・・ ベルグラヴィア国王陛下がシュロックをお忍びで訪れ、キツネ狩りで迷い込んだ奇妙な洋館を知らべてくれという。なにしろ全員が白上着を着て、袖口が縫い合わされているのだ。シュロックは国王を亡き者にする陰謀があると推理する。
誘拐された王子 (The Adventure of the Lost Prince) ・・・ さるやんごとなき婦人の訪問を受けた。8歳の男の子が誘拐されたので、取り戻してくれという。手がかりは、綴りを間違えた脅迫状一通。そこで、シュロックは男の子と犬を見つけたのだった。
シュロック・ホームズ最後の事件 (The Final Adventure) ・・・ モナコ公国に休暇で出かけていたら、カジノの店主から最近地下からおかしな音が聞こえる。幽霊ではないかといううわさで大打撃。どうにかしてくれというので、地下に行くと、貧しいベッドに粗末な家具。なぜかスコップその他。ホームズは病気もちの労働者ではないかというので、慈善活動に励む。そこに現れたのは宿敵マーティ教授。


 シュロックたちはしきりに音楽会にでかけ、ショスタコービッチバルトークティンパニ協奏曲(実在しない)などを聴く。事件の起きたのは54年、62年と書かれるから19世紀か20世紀かはわからない。まあ電話もないし、二輪馬車(ハンサム)が走っているから19世紀ということにしておこう。そうすると、人名と時代が合わないのだが。まあ、そこは気にしない、気にしない。
 多くがダジャレや言葉の多義性なので、翻訳すると、おかしさが半減してしまうなあ。註をいれるとそれこそ興ざめだし。都筑センセーや柳瀬尚紀氏だとどう訳しただろう。あとは、元のドイルのホームズ譚を知っていたほうがよいはず。たぶん、ほとんどのタイトルはパロディになっているし、登場人物などにも元の作品を思い出させるしかけがある。自分はそこまでホームズ譚を知らないので(最後に読んだのは四半世紀前だぜ)、ここでも面白さを堪能できなかった。
 1960年に最初の一編が掲載され、1966年に短編集にまとめられた。これも、10分間浮世を世知辛さを忘れるためにはもってこいのおとぎ話。

 光文社文庫で出ていたのは、別編集。「冒険」「回想」と重複している短編はほとんどない模様。