odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

マイケル・ファラディ「ロウソクの科学」(岩波文庫)

 高校時代に読んだのだが、どこかにいってしまったのを、ネットで公開されている翻訳で読み直す。
Chemical History of A Candle: Japanese
 岩波文庫版には、実験器具や実験風景の挿絵があったと記憶するのだが、ここには載っていない。また、もともとは1847-48年と60-61年のクリスマス連続講演をまとめたものだが、編集者や版の違いで異同があるらしい。このテキストクリティークに際して、訳者はネットのいくつかの版を参照して復元したところもあるらしい。150年前の本なので著作権切れ、ネットには原文テキストがたくさんあるだろうが、いちいちチェックするのは大変です。訳者には感謝。
 全部で6つに分かれていて、最後の二つの章が1860-61年のものらしい。
第 1 章 ロウソクの炎はどこからきているんだろうか。
第 2 章 炎の輝き――燃焼に必要な空気――水の生成。
第 3 章 燃焼の産物――水の性質――化合物――水素
第 4 章 ロウソクの中の水素:燃えて水に――水の残りの部分:酸素
第 5 章 空中の酸素――大気の性質――二酸化炭素
第 6 章 呼吸はなぜ燃えるロウソクと似ているか。
 まず一本のロウソクがあると思いなせえ。当時のロンドンではありふれた商品で生活雑貨で、日常特に気にすることもなく使われるもの。ファラデー先生は、ロウソクに火をつけて、おもむろに語りだす。「燃える」とはどういうこと? 燃えるためには何が必要? 燃えた後に何ができる? 条件を変えると物の燃え方はどんなふうに変わる? こういうことを実演を交えて、わかりやすく説明する。その結果、燃焼、気体-液体-個体、空気圧、電気分解、気体の重量と体積、電気、呼吸など、とても幅広い分野に話題が広がった。一個のコップを語ることで哲学ができるといったのは誰だっけ。それになぞらえれば一本のロウソクで科学ができる(冒頭でロウソクの種類と製法も語っているから社会学にもなるのだ)。
 くわえて、ここには数式が一切登場しない。どうやらファラデー先生本人が数学嫌い、計算嫌いだったためらしい(マックスウェルという協力者がいて、ファラデーの考えを数学で厳密に記述したのでファラデーの業績がのちに残ったという)。数式を使われると、たしかにこの厳密な形式化にはついていけないことがあるからなあ。
 内容は中学から高校初年度の科学に対応するので、ミドルティーンは挑戦するべし。たぶん記述の緩さに眠気を生じるだろうけど(高校生の時の自分がそう)、重要なのはファラデー先生の方法や語りのしかた。燃焼という現象をみることから、どこまで議論や考えを広げることができるか。この好奇心の広げ方こそが科学者の在り方なのだということ。訳者の解説にもあるけど、科学の方法は仮説-実験/観察-検証というプロセスであるとされるが、そのモデルで科学がおこなわれることはきわめて少ない。たんに対象を観察する、以前からやっている実験を条件を代えてやってみてでてきた現象に驚く、そういうところから始まる方がはるかにおおい(たぶん企業の新製品開発でも同じだと思う。いきなりアイデアが生まれるのではなく、既存製品をこねくり回しているうちに、部分的な改変が生まれ、その集積が新製品になる)。
 中身の古さと方法の普遍性。これが今日において「古典」となっている理由。