2004年6月に公益通報者保護法が制定された。その説明(のようなもの)。21世紀になってから、企業の不正が連続して発覚した。そのきっかけになったのが労働者(雇用人)による内部告発。これを行政が調査し、マスコミが報じることによって、企業や行政などの不正が大きな問題になった。当事者や経営者が処罰されるだけではなく、企業そのものが破産、閉業することもあった。その際に、内部告発者が企業や行政によって報復されたり処罰されたりすることがあり、社会的な正義を実現しようとする内部告発者を保護しようというのが法律の骨子。
本書では、集団や組織の不正を企業や外部機関に報告する活動を、密告・内部告発・公益通報とわける。行為は似ていても、通報対象の事実と通報者の動機が問われ、それによって区分されるという(告発者、通報者の動機を斟酌することを定義に入れるべきであるかは自分は疑問)。日本の企業は封建時代の武家屋敷や藩をモデルにしていて、雇用主と雇用者の関係を主従関係としたり、強固な団結を要求する。それが不正の発生と組織的なみすごしの原因になり、この「和」を乱すものを排除する力が強く働く。なので、告発者や通報者は集団や組織からの報復をうけることになる。これは戦後の公害企業でもおきたことであり、21世紀の企業でも起きていることだ。加えて、最近の事例をみると、告発者や通報者への報復には民族・人種差別その他の差別が複合する場合がある。
告発者や通報者は、企業や組織内の不正(データ改ざん、不正会計、横領、裏金造り、贈収賄、公私混同、法令違反などが本書に出てきた事例)に対して、正義を実現しようとする。企業や組織の内部では不正である行為が慣例や善であるとして、処罰されないし、改善にもいたらないことがある。組織や集団の慣例や善が社会の利益に合致しないとして、正義を実現しようとする。それが内部告発や公益通報。組織の了解を得ず、ほぼ単独で行われる。本書によると、通報や告発を考えているものにアドバイスすることもあるらしい(慎重であり賢明であれ。匿名のマイナス面を考慮せよ。アドバイスする仲間を見つけろ。手段を再検討しろ。客観的証拠を用意しろ。とはいえ、結局は本人の意志が肝心で、眠れない日々を覚悟しろ)。
過去の調査によると、告発者や通報者がハッピーになるのはかなり困難。本人の意志で実行するのであっても、センセーショナルな事件になると社会からのバッシングも強い。とりわけこの国では、通報者や告発者がマイノリティであると、社会の敵意が集中する。場合によっては、国内にいられなくなり、実質的な亡命を行うことすらある。2004年施行の法では、保護の内容は解雇の無効と不利益な取り扱いの禁止まで。告発者保護は、それだけでいいのかな。
法の施行と同じころから、コンプライアンスが企業経営に取り入れられるようになった。法令順守を企業自身が行うことを宣言し、組織と仕組みをつくるというもの。会社法では株式会社は監査をもつことを定めていて、業務の法令違反がないかを監査する。本来的には、組織や集団内部で不正が暴かれるべきであるが、そうならない圧力がはたらいていて、機能しないケースが多いということなのだろう。ちなみに、企業コンプライアンスでは内部通報制度をつくり、通報者の保護を徹底することが求められる。
(とはいえ、多くのブラック企業では内部通報者に報復があり、差別が行われる。裁判になっている事例もあるが、勝訴まではむずかしいようだ。)
これから就職する若い人たちに、内部告発の仕組みを知ってほしい。最初にぶち当たる会社の不正は労働基準法違反と各種のハラスメントだから、それらの知識と内部通報のやり方を教育されるべきだ。そのような知識と告発する実行力のある社員が増えることが、結果として企業の不正を見逃さない気風になっていくと思う。
内容は重要だが、とても散漫な構成。同じ話題が繰り返される。編集者はもっと頑張るように。