odd_hatchの読書ノート

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大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-2

2021/03/02 大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-1 の続き

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  20世紀前半の国内政治がわかりにくいのは、元老だの元老院だのがあり、選挙で選出されていないものが政治的な決定を下すことができ、首相にいたっては天皇の裁可がないと組閣ができないこと。西園寺公望が元老として首相決定にかかわっているが、この人なにか実績や功があるの?(日本の歴史25「太平洋戦争」によると明治中期からの慣行だとのこと) 意思決定のプロセスが複雑で、決定の責任がどこにあるかわからない。そういう煩瑣な組織が手続きなしにできる(のちに総・外・陸・海・大蔵の五省会議ができるのもそう)。日本のファシズムの無責任体制が典型的に表れている。
 くわえて、政党のわかりにくさも。政友会だのいくつかの政党が政権を交代したが、その差異がきわめてあいまい。経済と政治の主張が違いがないのは、庶民や大衆(あるいは工業労働者と農民など)の利益を代表しているのではなく、財閥の支持を頼っていた。なので、にたりよったりの政党が政権争いをしていて、軍部の横やりや無理難題を拒否できない。次第に、軍の意向に沿うような選択をするようになる。定見のない連中が井戸の中で騒いでいるうちに、ファッショに取り込まれる。(歴史書だと、憲政がダメになった原因を数名の首相経験者に求めているけど、それではファッショ化の危機を乗り切る方法を学べない)。
(昭和ゼロ年代の少壮政治家や若手官僚が1950-70年代の政治家や企業家として再登場する。岸信介吉田茂、大野伴陸、正力松太郎、などなど。彼らの復権を戦後に認めたことが21世紀になっても民主化の足かせになっている。)
 日露戦争満州の南に日本軍が駐留できる権利を得たが、以来四半世紀。情報交換がやりずらいのをいいことに、満州駐留の陸軍が政府方針に逆らうようになる。その例が、張作霖爆殺事件だし満州事変だし満州国の建国。これらを政府が「始まったことは仕方ねえ」と追認するので、さらに政府の権威が落ちる。本書の記述では国際連盟の脱退も、日本政府代表の松岡の独断で決めたように見える。不正や逸脱を懲罰できず、放置・追認することを繰り返すうちに、政府の機能と権威が落ちて、それを補完するために軍部が政治に積極的に加わり、ファッショ化を進める。
(ここで日本が中国や満州にこだわったのは、世界不況のあと西洋の先進国がブロック経済圏を作ったことにある。西洋諸国は旧植民地をベースにブロック経済圏を作ったが、それがない日本とドイツは他国の植民地を侵略したので、反発を買った。アメリカは植民地を持たないが、隣接する北アメリカとカリブ海諸島をブロック化した。)
 軍部の動きに呼応するように民間右翼が扇動し、警察・憲兵が国民を監視し、逸脱者を処罰する風潮ができて、庶民を委縮させる。あるいは、収奪が激しいが組織化されていない農民や中小企業者(小売店や職人など)がファッショに賛同する。なにしろファシズムの最初は反権力・藩資本主義・反理性・農本主義(自給自足推奨)として現れ、彼らの要求を代弁すると考えるから。しかし勢力が大きくなった時には、資金を得るために資本や財閥にすり寄り、民間を抑圧する側に転化する。
 ここまで日本のファシズムが成立するまでを本書を図式的にまとめてみた。重要なのは、このファシズム国家の成立が国民の要望をまとめるように、下から・自発的に起きていること。下から・自発的に起こるのは、明治維新後の政策の結果であること。経済政策の失敗が格差を拡大し、窮乏化した庶民・大衆を全体主義を志向させる原因になること。加えて、ヘイトスピーチを放置しヘイトクライムを容認することがファシズムに向かわせること。

 

  

2021/02/26 大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-3 に続く