odd_hatchの読書ノート

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チャールズ・ダーウィン「種の起源 下」(光文社古典新訳文庫)-1

2020/05/29 チャールズ・ダーウィン「種の起源 上」(光文社古典新訳文庫)-1 1858年
2020/05/28 チャールズ・ダーウィン「種の起源 上」(光文社古典新訳文庫)-2 1858年

 上巻はダーウィンの考えの理論編。下巻(と上巻の一部)は自然淘汰説に対する難題への回答(の試み)。

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本能 ・・・ 本能と習性の区別は難しい、起源や遺伝のメカニズム(ということばはダーウィンは使っていない)は不明。でも観察では本能の変異、単純なものから複雑なものへという移行がみつかる。なので本能は自然淘汰で説明可能。
(大半は社会性昆虫の複雑さの説明。18世紀の博物学が標本(死体)の観察だったのが、ダーウィンの時代には生態観察、行動観察も加わっていて、こちらを重視していることに注目。)

雑種形成 ・・・ 「学説の難題」で取り上げた種間交雑は、不稔であったり不稔の子を産むが、変種の交雑では稔性があるのはなぜ?に答える、はずなんだが、実例の枚挙ばかりでよくわからない。
(訳者の解説などからすると、この章は創造説に対する反駁でもあるようだ。創造説だと種間交雑の子孫が不稔になるのは、もともとそのように設計しているからとなるけど、ダーウィンの集めた事例のなかにはあったりもする。あと、このころは種と変種が別物という理解が一般的だったように思えるが、ダーウィンは種と変種に本質的な違いはないと主張するために交雑にこだわったのだろう。)

地質学的証拠の不完全さについて ・・・ 「学説の難題」で取り上げた中間段階や中間種が見つからないのはなぜに答える。化石になるには、生物の条件×化石になる条件×化石が保存される条件×化石が発見される条件の積になるので、極めてまれになるのはあたりまえ。堆積が起こるのはランダムなので、化石はランダムにしか作られない。なお、中間種というが、それは現生種の中間にあるという意味ではなく、共通する祖先種との中間型である。ここは間違いやすいところなので注意。

「同じグループに属する過去と現在のすべての種は、無数の段階的移行種によって結ばれ、分岐しながら長くつながる生命の連鎖を形成しているはずである(P107-108)」

 18世紀のナチュラリスト分類学者が考えていた生命の連鎖には時間軸がなかった(あるいは歴史を無視して現生種と化石種を同一に並べた)。ダーウィンの時代にはこれらが入っていることに注意。
(この章はライエル「地質学原理」に依拠している。すでに地球上では、土地の隆起、沈降、堆積、浸食などがおきていることがわかっていた。これを生物の分布や習性と結んで考えるようになっている。総合知としての進化論。)

生物の地質学的変遷について ・・・ 化石が少ないとはいってもある程度のことはわかるのであり、種は変異していて、途中に絶滅した種がいる。その事実をもっともよく説明できるのは自然淘汰説。創造説や天変地異説では説明できない。
(種は増加しようとするが、同時に何らかの抑制を受けている。なので変異が生じ、抑制に対して利点をもつ生物集団が増加していく。この考えは忘れがちなので注意するようにとダーウィンは忠告する。ここまで読んでわかったが、今日「適応」と書くところをダーウィンは「利点/有利」と書く。功利主義的なニュアンスを含むので、のちの科学者はダーウィンのことばを使わないようにした。)

地理的分布 ・・・ (ダーウィンは、種は地球上の一点で創造され各地に分布した、また大陸は隆起沈降はするが位置は変わらない、と考えていた。そうすると異なる大陸で同じ種が分布することや、複数の離島で同じ種が分布することの説明ができなかった。とくに哺乳類。なので、種が移動して分布する方法を検討する。)

地理的分布 承前 ・・・ (ダーウィン自然淘汰によって種は継時的に連続している(中間種は絶滅する)というイメージをもっているが、同じ時間で見ると種は空間的に連続しているとみている。時間と空間の4次元の連続性イメージを持つのが、18世紀のナチュラリスト分類学者と異なるところ。また下等な生物の変化速度は高等生物よりも遅いという。なので、下等生物ほど特有の性質を保持しやすく、哺乳類のような高等生物では中間種が見つからない理由となる。)

 

 ここにでてくる章は「種の起源」の中で最も読むのがつらいところ。ダーウィンのアイデアを補完するための知識が当時は不十分だった。遺伝や発生の現象はしられていても、原理やメカニズムの解明にはほどとおい。パスツールの実験の前なので、ダーウィンは生物の自然発生説を否定していないようだし、なにしろ微生物や単細胞生物のこともほとんど知られていない(なので、種は地球上の一点で創造され各地に分布したと考えている。最初の種はおそらく多細胞で器官をもっている小型の生物というイメージだったか)。大陸が移動するという考えが出てくるのはダーウィンの死後半世紀以上後(ウェゲナーの大陸移動説は1912年に提唱)。で、受け入れられたのは一世紀もあと。なので、ダーウィンが枚挙した生物の移動方法(漂流、氷山、氷河による移動、鳥や魚への付着など)よりももっと単純な説明がつくようになった。
 ダーウィンの後の進化論はこれらの章にかかれた「難題」とダーウィンの回答の不十分さを補完するように進んだといえる。実際に、20世紀の初頭にメンデルの法則が再発見されたのちに、ダーウィンの考えに遺伝学ほかの知識を加えて、ネオ・ダーウィニズムとして進化論は統合される。
(なので、ダーウィン自身の考えや「種の起源」を批判することは進化論を否定することにはならない。実際に、「種の起源」の記述の間違いを指摘することで種の進化はなかったとする否定論者がでている。でも彼らの議論のたいていはダーウィンの考えやネオ・ダーウィニズムの誤解に基づくもの。彼らの主張に共感したり、耳を傾ける必要はない。でも、かれらは議論済ですでに破綻した主張をなんども繰り返してくる。厄介で面倒だが、そのつど粉砕していかないといけない。)


      

 

      

2020/05/25 チャールズ・ダーウィン「種の起源 下 」(光文社古典新訳文庫)-2 1858年