2020/05/29 チャールズ・ダーウィン「種の起源 上」(光文社古典新訳文庫)-1 1858年
2020/05/28 チャールズ・ダーウィン「種の起源 上」(光文社古典新訳文庫)-2 1858年
2020/05/26 チャールズ・ダーウィン「種の起源 下」(光文社古典新訳文庫)-1 1858年
分類の方法について。そして全巻のまとめ。
生物相互の類縁性、形態学、発生学、痕跡器官 ・・・ ナチュラリストや分類学者は自然分類を心がけていて、器官や構造の類似を分類基準にしてきた。ダーウィンはそこに「由来」をくわえることが必要だという。すなわち
「個々の種から生み出される変異した子孫は、自然界の秩序の中で可能な限り多くの異なる居場所を閉めようとすることから、それらの形質はどんどん分岐していく傾向がある(P284)」
「個体数を増加させると同時に形質を分岐させている生物には、分岐の程度や改良の程度が遅れている先住者に取って代わって根絶させてしまう傾向が常にある(P285)」
のであり、「自然分類は家系図のような系統的な配列(P300)」で、「グループごとに変化している度合いが異なる点については、属・科・節・目・網といった個別のグループに分けることで表現しなければならない(同)」。このような分類をダーウィンは言語や方言の分類に例える(まさにダーウィンの同時代に言語の由来や類縁を調べる言語学が勃興。同じく語源学もできた)。
種を固定したものとしてみるのではなく、生存闘争(競争)をおこない、繁殖で自然淘汰がおき、移動して新しい居場所を獲得し、個体数を増やすという空間的・時間的なダイナミクスとしてみる。生物は居場所を得るために変異しているので、完成や完璧はない。この見方がダーウィンの新しさ。加えると、このダイナミクスに種の意思や創造主の意思のような観察できないものを入れないという態度も重要。生物を記述するとき、どうしてもわかりやすい表現をいれたくなってしまう(目的論とか擬人化とか過度な一般化とか)。ダーウィンはそうならないようにいましめる。とはいえ今日の目ではダーウィンの表現には危ういところがあり(用不用、有利/不利など)、ネオ・ダーウィニズムでは注意深く退けられている。
<参考エントリー>
日高敏隆「動物にとって社会とはなにか」(講談社学術文庫)
(この章では創造論や天変地異説の反論が出てくる。重要なのは創造主の意図で器官他ができているというが、具体的な意味を特定しなければ知識に寄与しないという指摘。科学では、神の意思を忖度するより、知識を拡大進化することが重要なのだ。ちなみにダーウィンはクリスチャン。)
<参考エントリー>
チャールズ・ダーウィン「チャールズ・ダーウィン」(岩波文庫)
要約と結論 ・・・ 末尾を引用。
「われわれの周囲で作用している法則は(略)『成長』して『繁殖』すること、繁殖とさして違わない意味での『遺伝』、生物を取り巻く条件の関節的および直接的な作用と用不用による『変異性』、『生存闘争』を引き起こし、その結果として『自然淘汰』を作用させ、『形質の分岐』と改良面で劣る種類の『絶滅』を強いる高い『増加率』などである。つまり、自然の闘争から、飢餓と死から、われわれにとってはもっとも高貴な目的と思える高等動物の誕生が直接の結果としてもたらされるのだ。この生命観には荘厳さがある。声明は、もろもろの力とともに数種類あるいは一種類に吹き込まれたことに端を発し、重力の不変の法則に従って地球が循環する間に、じつに単純なものからきわめて美しくきわめてすばらしい生物種が際限なく発展し、なおも発展しつつあるのだ。(P403)」
(「われわれにとってはもっとも高貴な目的と思える高等動物の誕生」の表現には目をつぶることにしよう。)
ダーウィンの力強い言葉で締めくくられる。実際、ダーウィンの考えを敷衍して精査することで、ナチュラルヒストリー、博物学は生物学に転換した(それだけではないけど)。ことに生態学や動物行動学のようなこの時期はなかった学問が、ダーウィンの観察を拡張し、当時の博物学にあった概念を再検討・再定義することによって成立した。そのような見取り図をつくれるように、ダーウィンの仕事は多くを含んでいる。それこそのちの生物学は「種の起源」の注釈を作ることを目的にしているかのような。
生物をダイナミクスとしてみることは上のように学問を広げ、世界の見方を変える。変化のある明るい世界。でも、同時に自然淘汰による進化は、種としての人類には限界があること、いずれ種の絶滅に至る可能性があることを示唆している。進化論は過去と現在を説明するが、未来を予測しない(なので、進化論は科学理論ではないという議論が20世紀にあった)。唯一いえることは現在ある種もいずれ絶滅するだろうということだけ。同じ時期の1865年にクラウジウスが熱力学第二法則を定式化し、「熱的死」の概念が生まれた。宇宙のエントロピーが最大になった時に、宇宙は運動をやめ極低温状態で停止する。人類と宇宙の究極的な絶滅と死。進化の行く末にみえたのはペシミズム。このあと科学的な終末のイメージは広がっていき、19世紀末の西洋の気分を作る理由になった。(H・G・ウェルズ「タイム・マシン」、ルイス・キャロル「鏡の国のアリス」など。世紀末絵画の憂愁な画面。)
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われわれはどこからきて、どこへいくのかというあいまいだが切実な問いを考えるときに、進化論を抜きにすることはできない。ダーウィンの仕事は示唆に富むが、現代の進化論とは異なるところにある。遺伝学や分子生物学その他の最新研究を反映した現代の進化論も読むべき。どの本がいいかは、ちとわからないけど。
(現代進化論の雄であるスティーブン・グールドやリチャード・ドーキンス、あるいは社会生物学の提唱者E・O・ウィルソンの考えが新聞や雑誌などで漏れ伝わったのだが、どうも納得いかなくて、彼らを読む気にならなかったのだ。)