odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

都筑道夫「ひとり雑誌増刊号」(角川文庫)

 ひとり雑誌全3巻は古い切り抜きから小説(と一冊ごとに2つの講談ダイジェスト)を編集した。好評だったのでもう一冊出すことになったが、小説は残っていないので、講談ダイジェストだけで編むことにした。全8編のうち怪異をあつかったのが5つあるので、「妖怪変化大特集」。

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佐賀妖猫伝 ・・・ 養父と養子の殺し合い。生首の乗った碁盤が鍋島家に献上されてから怪異が続く。ついには、妖猫が当主光茂を狙うに至った。忠臣小森半左エ門は奸人の讒訴で浪人に身になるが、妖猫を打ち取らんと塗炭の苦しみをなめる。因果は巡り、ついには妖猫を山中に追い詰めた。岡本綺堂の言う通り、日本の怪談は因果を合理的に説明しすぎるし、女性・障碍者への差別意識が根強いし、忠・孝の教えが煩わしいしで、あんまり楽しめなかった。

毒婦暦切られお富 ・・・ 目の覚めるような美人の女掏摸お富。ひょんなことで出会った浪人与三郎。お富は与三郎を求めながらも、実は盗賊の与三郎に振られ続ける。顔に傷を負って隠遁しているお富のまえに、出家した与三郎こと無覚が現れる。女よりも男たちのほうが悪質なのに「毒婦」とされるこの不条理。

黒田美少年録 ・・・ 山奥の猟師に娘が生まれるが母がない。あわれと感じた法師が寺に連れ帰り、男として育てた。長じて美少年になり、黒田の殿様の寵愛をうけるまでになる。そこに、娘の親がひそかに現われ、黒田家打倒の陰謀を持ち掛ける。大きな話の中の転換点。無理やりジェンダーを押し付けられた娘こそ哀れ。男の身勝手なこと。

円朝うつし乳房榎 ・・・ 画業に専念する重信の妻を狙って磯貝浪江策略を凝らす。とうとう重信を殺し、息子の真代太郎をたきに投げ込もうとするとき、重信の霊が現れる。のちの敵討ちが成就するまでの入り口。

変幻小笠原狐 ・・・ 宮本武蔵の孫の兵馬、山中で鴉に襲われる狐を救う。おりから兵馬は家の敵との戦いに入る。狐は先々で兵馬を助ける。
業行小僧帯とき控 ・・・ 江戸川に女の生首が流れている。それを拾うと、いがぐり頭と若い娘が首をくれという。話変わって、生首の妹が折檻され、誘拐され、それを義賊業行小僧が救う。

怪談牡丹燈籠 ・・・ 牡丹灯篭のもとは中国の「剪灯新話」(剪燈新話、せんとうしんわ)で、江戸から明治にかけての三遊亭円朝が講談にしたという。

種彦くずし源氏物語 ・・・ 柳亭種彦「偽紫田舎源氏」のリライト。室町時代、将軍の隠し子光氏、足利家を滅ぼさんと欲する山名宗清と争う。都合、3人の女が身代わりになり、ついに将軍の前で舞うことになる。そこに宗清の送った殺し屋が刃を向ける。

 

 もともとの講談のせいなのだが、21世紀に読むのはきつい。時代の制約があったとしても、女性や子供への虐待やネグレクトがつづくとなると、もう読めませんでした。さらに小説作法が現代と異なる。怪異や謎が現れると、次の場面で因果が明かされてしまうという次第。いまならクライマックスまで隠しておくことをすぐに答えてしまうのだから、読書の興をそぐ。人物関係が複雑で、主筋と脇筋がわかりにくいのもいけない(そのかわり、二次創作やスピンアウト作品がたくさん生まれたのだが)。もう講談とその継嗣の時代小説は読まなくていいや。
 センセーの小説の中では、最も価値の低いもの。そう結論付けざるを得ない。