odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

都筑道夫「ひとり雑誌第3号」(角川文庫)

 第3号は「空前絶後大特集」。

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弁天夜叉 ・・・ 女掏摸からのし上がる弁天小僧菊之助(いまでいう男の娘)の身の破滅まで。

敵討三世相 ・・・ 敵討ちにでた兄弟、捕まらない相手、それも幼いころから世話をしてもらった伯父を追うことに飽きる。弟は離反し、兄は追う。このころ(1950年代前半)敵討ちという大時代な「道徳」を馬鹿にする考えが一般的になってきたのだな。

闇にひそむ顔(パトリック・ハンター) ・・・ 裏切った相手を追って、無法者の街に流れてきた若者。拳銃片手に追跡を行う。前の「敵討三世相」が敵討ちを相対化するのに、こちらは絶対的な善となる。途中でロマンスが入るのは、股旅物か西部劇か。

やさしい母/おはよう夫人とこんばんわ夫人/雪女郎/旧友/真夜中の雷雨/スペードの2 ・・・ ショートショート

恋吹雪 ・・・ 吹雪に行き倒れになりかけた男は、妻の元夫だった。元夫の激しいDV(という言葉は小説にも、当時の語彙にもない)から逃げてきた妻を追ってきたに違いない。しかし、盲目になった元夫は慈愛の表情を浮かべる。作者の意図と異なり、嫉妬をもとに優劣をつける男の心情の情けなさが目立つなあ。

鼠小僧旅日記(鶴川恭介) ・・・ 鼠小僧治郎吉の「駿府の恐喝」の段。ときに講談の口上をそのまま採録(してもよいくらいにみな知っていたわけだ)。

赤銅御殿 ・・・ 都筑道夫「変幻黄金鬼」(時代小説文庫)所収

美人の生理夜譚 ・・・ 貧乏な家の娘が強姦されそうになるのを侍が助ける。そのまま妻になったが、相手はなんと盗賊の首領。正体を知られた首領は妻を生き埋めにするが、それを救ったのは元侍で今は町人の石井山三郎。首領は山三郎の妹に求婚してきた。ここに二人の戦いが始まる。江戸っ子は早口、饒舌でダジャレ好き。

背中の女 ・・・ 背中を見せる裸の女の夢を毎日見る、そういう期待と悩みを持った職人がまさにその女をみつけた。あとをつけていたら侍に囲まれて、屋敷に軟禁されてしまう。なぜか。その裏にもう一つのストーリーがあるが、そちらの悲恋を描かずに、江戸っ子の職人の夢が吉となる話のほうを書く。

明日の夕刊(フィリス・マクゴワン) ・・・ 明日の夕刊に自分の死亡記事がでていた。

加留多のおきん(伊東映昌) ・・・ 因業の子として生まれたおきんが悪女に転落するまで。なんだけど、おきんに悪を働く男が放置されるというのは納得いかん。

古寺物語(淡路龍太郎) ・・・ 古寺ににっちもさっちもいかなくなった幇間。そこに巣食う狸ども、妖怪に化けて追い出そうとしたが、幇間はちっとも驚かない。どうしよう。狐狸妖怪大集合。

欲望の港(レイモンド・シルヴァ、淡路暎一訳) ・・・ 南アメリカのダイヤモンド密輸団が暗躍しているので、イギリスの女私立探偵が行くことになった。途中で警告があり、港に着くとすぐに銃撃。途中、怪しい青年に言い寄られる。調査を開始すると、すぐに密輸団が探偵の後を追う。アクション・ハードボイルド。女性の私立探偵はこの時代とても珍しいのではないか。最後の謎解きもびしっと決まる。もうミステリの作法を身に着けてしまった。

恋の血潮は紅に ・・・ アプレゲールのお嬢さん、自分の誘惑に乗らない若い画家をもてあそぼうとする。決して手を出さない品行方正な青年がそうするわけは?(で、タイトルになる)

幻妖白縫姫 ・・・ 手下の裏切りにあって殺された藩主の娘、縁あって妖術を習得する。両親の仇と、手下、今は藩主に復讐を誓う。しかし、今の藩主の部下が男装の娘を見破り、ことごとに邪魔をする。復讐はなるか。娘の妖術は無双な力をもっているが、あいにく魔鏡には通じない。それを仇が持っているというのが、娘に与えたハンディキャップ。娘はアクセルとブレーキを一緒に掛けねばならず、女という体格の差が刃を交える場面では弱点になる。なので、物語はどんどん転げていく。

愛憎血みどろ首(淡路龍太郎) ・・・ 張子の人形を作る職人が、妻の不貞を教えられ、疑念にとらわれる。ついに確証を得て、間男の首をとり、妻につきつけた・・・

流転の図絵(淡路龍太郎) ・・・ 悪女に見初められて転落していく浪人。旅のさなかで行き違った侍との不思議な縁。江戸から明治に変わるころの犯罪小説。

 

 センセーの書く小説は会話のうまさにうなるのであるが、すでに20代前半の若書きにおいても闊達な筆を運ぶ。これは邪推するに、講談のリライトをたくさんこなしたからであろう。もともとが口演を聞き取ってテキストにしたもの。会話はすでにこなれたものになっていた。それを大量に読み、書き写すという作業をすることによって、会話の技術を磨いたに違いない。俺はそうみた。
 「真夜中の雷雨」に、父がちかごろのは東京の夕立ではない、戦前の夕立はもっと威勢がよかったとしゃべる。これはずっとのちに何度も繰り返されるセンセーの好きな話題。