odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

都筑道夫「変幻黄金鬼」(時代小説文庫)

 1950年代と1980年代の時代物、伝奇小説を集める。最初の作はもともとは「魔海風雲録」。同じタイトルの長編を1954年に出したので、短編を本書のように改題。最初の4編が50年代はじめ(「私が二十歳から二三歳までの間に、どこかでかいたもの」)。

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変幻黄金鬼 1952.05? ・・ 大坂夏の陣のまえ、食い詰め浪人の美代太郎は女海賊の頭・桂に救われる。桂の目的は親の仇・こがね丸の敵を討つこと。ようやく船に追いついたが、逆にとらえられてしまった。妖しい技によって鏡の世界に閉じ込められる。桂をなぶりものにするこがね丸を退治できるのか。こがね丸にかしずく美女・小浪、不思議な僧侶などの脇も良い仕事をする。

赤銅御殿 ・・・ 6年後の大晦日に赤銅御殿の扉が開く。そこには宝が隠されている。父の言を思い出して、放蕩息子が帰還する。息子・三之助に意地悪くあたる武士は御殿の中庭で殺されている。大晦日の夜、息子は押しかけ女房や使用人とともに御殿が開くのを待つ。ライバルとの抗争とおもいきや後半は宝探し(「孤島の鬼」のよう)。詰め込みすぎで、バランスが悪い習作。

地獄屋敷 ・・・ 丑の刻参りの娘にちょっかいをだしたら、幕末の動乱を利用しようとする商家の旦那の様子がおかしいという。食い詰め浪人の春太郎は天狗小僧の手を借りて、向島の通称「地獄屋敷」に乗り込む。

妖説横浜図絵 ・・・ 上野の彰義隊に二人が横浜に敗走。途中で空を飛ぶ裸の女が墜落したのを救う。女をつれて横浜の商店に行ったものの、女は消え、死体がぶら下がっている。維新のどさくさまぎれの暗躍に巻き込まれる。

 のちの充実(「べらぼう村正」「神変武甲伝奇」「神州魔法陣」など)からすると、若さが目立つのであるが、東映大映の時代劇映画になってもおかしくないストーリーとキャラは手慣れたものだ。とはいえ、大きな構想にしたにもかかわらず、枚数のおかげで骨格だけになってしまった。ことに、クライマックスの決闘をかけなかったのが残念。
 最後のは1867年ころを舞台にしている。100年たっていないのに、維新は時代物になったのだ。1880-1900年の大変革が文化や習俗の断裂を生んでいる。また多くの作で悪党が異人や渡来人。悪や恐怖の具象がそういう人々になるというのが気に入らない(が進駐軍の記憶が残るころだと、時代の制約を忖度しよう)。

 

 後ろ4つの短編はのちに「幽鬼伝」(大陸文庫)にまとめられる連作短編。文庫にまとめられたのは1985年で、本書出版当時は進行中の仕事。
からくり念仏 1978夏 ・・・ 「幽鬼伝」の「念仏のまき」。
矢がすり菩薩 1979年? ・・・ 同「妖弓のまき」
髑髏かんざし 1980.03 ・・・ 同「髑髏のまき」
首なし地蔵 1981.03 ・・・  同「生首のまき」
 1981年11月に書かれた解説によると、

「花川戸に隠居所をかまえるもと同心の老人と、その配下だった中年の目明し、という取りあわせは、捕物帳のものだけれども、超能力を持つ盲目の娘を配して、怪奇小説にしたところが、みそであろう(P298)」。

 少し後の長編「神変武甲伝奇」「神州魔法陣」でも、幻術と魔術などを使って、時代物ではないジャンルミックスを試みていた。このころは山田風太郎リバイバルがあったり、ソード&ソーサリーのファンタジーゲームブックが流行っていたり、「スターウォーズ」のSF活劇に人気があったりしていた。センセーの短編や長編はこういう流れに乗ったものだろうけど、趣向を凝らし、昔のままの小説は書かないのであった。

 

 時代小説文庫は稀覯本になっているようだ。

 たぶんほぼ同内容の復刻。