odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

都筑道夫「ひとり雑誌第2号」(角川文庫)

 続けて第2号。「掘出珍品大特集」と称する。

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妖説横浜図絵 ・・・ 都筑道夫「変幻黄金鬼」(時代小説文庫)所収

昔噺羅生門 ・・・ 羅生門の前で自害しようとする男を鬼が助ける。恋路が破れての果てであるが、風雅を解する鬼は一肌脱ごうと、疫病神に頼んで娘を病で死なせてやった。その遺骸が届くのを待っていたのだが・・。のちの「鼻垂れ天狗」の先駆(都筑道夫「フォークロスコープ日本」(集英社文庫) )

自来也 ・・・ 海賊船・自来也丸のお頭を殺した5人の部下が江戸で大商人になっていた。成人した頭の娘は逃れた手下の支援を受けて、5人の仇を打つことにする。4人まではスムーズに行き、警戒している最後の一人で思わぬ手抜かりが・・・。本邦版「巌窟王」。素直に敵討ちが完了しないのは、作者の腕。

小万源五兵衛 ・・・ 石部金吉の源五兵衛が芸者小万の一日限りの情夫になってくれの頼みを聞き入れる。そこから色と嫉妬の世界に。通常は源五兵衛の思い込みに端を発する殺傷事に涙を流すのであろうが、今となっては感情の抑制もできない男には同情すらできない。

罪の意識(フィリス・マクゴワン) ・・・ 叔母の遺産を狙う甥の完全犯罪。ハル「叔母殺人事件」の超短縮版。結末は違う。

明暗すみだ川 ・・・ 橋で浪人に絡まれている若い侍を機転をきかせてスリが逃がしてあげる。お礼にと受け取った富札がなんと一等賞。侍に返そうとするのだが・・・。テレビの時代劇に使えそうな一編。

無惨絵めがね ・・・ 遠眼鏡で見たのは殺人現場。その犯人と同じ顔の女が家にいる。疑惑でもんもんとしているところに、女は口を開く。「小万源五兵衛」「明暗すみだ川」そして本編と、モテない男に美女が突然近寄るのが発端。今でもこの手法のストーリーが延々と描かれている。

恐怖飛行(ツウサン・サマ) ・・・ 闇夜に墜落した飛行機。操縦士はすでに死亡していたので、殺人を犯して警察から逃げているローランは服と金とカバンを奪って、操縦士に成りすます。おりから独立運動過激派が操縦士を追っていた。操縦士を受け入れる組織も殺人犯を追う。フランスの犯罪小説(ボリス・ヴィアンの書くような)の翻訳。という体裁だが、実際は冒頭10枚くらいがまっとうな翻訳で、のこりはセンセーの創作。詳しくは「ひとり雑誌第1号」の解説で。

滝夜叉姫 ・・・ 将門、乱に敗れて遺子二人が復讐を誓う。良門と滝夜叉姫。舞姫の滝夜叉姫は追手の光圀に一目ぼれし、良門に戦を収めるように乞う。しかし光圀が良門に追っ手を差し向けるとき、滝夜叉姫は兄のために妖術を使わねばならない。己の恋か、身内の義理か。女の悲しさ。

妖婦五人女 ・・・ 緋牡丹お蝶、陸蒸気のお鶴、夜嵐お絹、鬼神のお松、霞のお千代。19世紀半ばまでの殺人事件にかかわった女性たちの講談話。恋愛に、情事、大金、酒池肉林、犯罪と大衆受けする要素がたっぷり。こういうので男が憂さを晴らしていたとなると、情けない。

くろがね武右衛門(淡路龍太郎) ・・・ 仏罰が当たって死ななくなった武士の苦悩。「闇を食う男」の完結編がすでにここにあった。(都筑道夫「闇を喰う男」(天山文庫)が未完だった理由を思い付きで書いたが、だいたいあっていたなあ。)

三ン下時雨 ・・・ ドスも満足に握れない三下が、シマを荒らす仇の組の用心棒に果し合いを申し込む。そこに、親の仇と追いかけてきた武士もいる。乾いた文体は、ハードボイルドかパルプ雑誌の犯罪小説のよう。

辛抱つよい母/殺した女の顔が腫れ物になった話 ・・・ ショートショート(という言葉はまだない。センセーがEQMMのちのハヤカワミステリマガジンの編集長になってから)

接吻(くちづけ)は血を拭いてから(アラン・リード、結城勉訳) ・・・ 恋人を取り戻すために親分を殺すことにする。いたのは死体と恋人。罪を引き受けることにして、恋人を逃がし、次のボスの追っ手を振り切る。しかし・・・。ラストシーンはのちの岡本喜八「殺人狂時代」に転用。

中国昔噺 竜 ・・・ 嵐の夜、洞窟で見つけた美女。村長の妻になる。龍王の娘と称する妻は日照りのために、村人から雨乞いを頼まれる。実は舞楽の流浪の娘、壇に上って初めて熱心に祈る。ハートウォーミングなおとぎ話。それにふさわしいウェットな文体。

クリスマス・プレゼント(ジェフ・エヴァンス) ・・・ クリスマスイブのしけたバー。小男が因縁をつけて客に嫌がらせ。でも客もバーテンもにこにこ。小男が出ていくと銃声。情けのかけかたもときに残酷(そんなことを考えずに、小男の言うとおりにすべきだったな。O・ヘンリーの短編のような時代ではない)。

艶色からくり狐(淡路龍太郎) ・・・ 大店の息子が街中で狐にだまされる。家に戻ると、息子が旦那を殺したと手配されていた。狐に化かされた話をしても誰も信じない。センセーの探偵小説では極めて初期のもの。時代小説、伝奇小説が下火になるなかでの暗中模索。

 

 20代前半の若者であるにもかかわらず、すでに文体をもっている。多数の文体を話に合わせて使い分ける。ときに感情移入のないかわいたハードボイルド調、書き手の主観が濃厚になり比喩や内面描写もする詠嘆調、講談の快調な口語体、故事に漢語を多用する漢文書き下し分文などなど。枚数が少ないので、描写の妙を楽しむまでにはいかないが、十分に楽しめた。
 いくつか後期の作品を予感させるような作品もあって、センセーは書いたことを忘れたようだが、筋や趣向はずっと残っていたのだね。