odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

都筑道夫「ひとり雑誌第1号」(角川文庫)-1

 1945年の敗戦と同時に、16歳の少年が早稲田実業に行くのをやめ、劇作家を志す。あるカストリ雑誌の編集部に入り、雑用をしているうちに、雑誌に穴が空こうとしたのでショートショート(という言葉は当時はない)を書いた。それから依頼されるたびに講談書き直し、翻訳、創作などをしていき、20歳を過ぎたときにはいっぱしのフルタイムライターになっていた。コピーもない時代、原稿を別に取っておくことなどできなかったが、作家は印刷された自作を切り抜いてとっておいた。それが四半世紀たって家の中から見つかり、1970年代に復刻された。それが「ひとり雑誌」計4冊。採録しなかった講談ダイジェストが同じくらいあるというから、わずか数年にいったいどのくらいの原稿を書いたのか。
 同時代にパルプマガジンに短編を量産していたという作家はアメリカにたくさんいた。このブログで紹介したなかには、ハメット、アイリッシュ、ブラウン、ハインラインスレッサーブラッドベリ、PKDという連中がいる。都筑道夫も同じような修行をしていたのだと驚く仕儀になる(なんとなれば、日本ではカストリ雑誌に短編を書きまくってのちにフルタイムライターになったという作家は他に思い当たらないから。これがマンガ家だと、昭和30-40年代に貸本マンガを描きまくってのちに大家になった人は結構いるのだが)。
 第1号は「緊急放出大特集」。

f:id:odd_hatch:20210916090111p:plain

魔海風雲録 ・・・ オリジナルの「魔海風雲録」で、のちに「変幻黄金鬼」(時代小説文庫)と改題。

黒い海盤車(ひとで) ・・・ 紀伊半島の獅子島(尿島)では当主の灘右衛門の跡取りがいなかった。行方不明の福松を探させたところ、8人もやってきた。おりしも旅絵師の潮月がいて、灘右衛門の娘やその侍女と知り合いになる。8人には見分けの「黒い海盤車」の痣がなかった。行方不明の跡取りはどこに? 「獄門島」の雰囲気。薄幸の娘を「北風に吹きまくられてきたような顔をしている」と見事な描写。

その一発(ジェフ・エヴァンス) ・・・ 出獄してきた男は妻とその愛人に要求したのはロシアン・ルーレット

妖虎 ・・・ 中国古潭。絶世の美女と虎の恋。

隅田の清姫(淡路龍太郎) ・・・ 浅草寺に佐四郎を訪ねてきたのは由美という上総の豪農の娘。ところが同じ顔が二人いる。どちらが佐四郎か。やがて一人が名乗りを上げ出立する。残された一人の述懐。安珍清姫伝説をひとひねり。

艶説稲妻双紙 ・・・ 講談ダイジェスト。江戸の終わりから明治にかけての「毒婦」伝。掏摸だったのが、泥棒といっしょに荒稼ぎをし、その間に男をたぶらかしては捨てていく。因果応報の結末になるのは講談の聞き手が男であるせいか。明治直後の横浜の風情を描き、のちに「西郷星」につながる。

ねずみ雲 ・・・ ねずみ小僧が捕まった。それは長屋のいい男の辰次だった。父が死に、辰次を頼ろうとしていたおしのは意気消沈。父が書き残した手紙をネタに手籠めにしようとする鳴海屋から逃げ出すと・・・。

花坂爺(淡路龍太郎) ・・・ 殿様に褒美をもらった花坂爺は幸福と富ともたらした灰が残り少なになっているのに愕然とした。すでに婆は死に、一人暮らし。そこで灰を飲むと、苦しさに吐血したのち、発見したのは若い姿。しかし爺殺しの嫌疑がかかり追手が出る。山に逃げるとそこにいたのは若い娘・・・。近代化された民話の後日譚。

地獄の大使(ルネ・ピジュオル:淡路暎一訳) ・・・ ならずもののジェニング・シェイは「地獄の大使」に殺し屋として雇われる。行先はフランス領アフリカ。そこの密輸団員を殺す指令を受けた。バーテン、ストリッパー、チンピラ、警察、口髭の紳士、老紳士などハードボイルド・アクションによくいる面々。誰が見方でだれが敵でだれが雇い主かわからない事態に、ジェニングは頭を働かす。ラストシーンのフェンシングと傷ついたジェニングを女が介抱するシーンは「女泣川ものがたり」で再現された。

 

2021/09/16 都筑道夫「ひとり雑誌第1号」(角川文庫)-2 1950年に続く