odd_hatchの読書ノート

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都筑道夫「ひとり雑誌第1号」(角川文庫)-2

2021/09/17 都筑道夫「ひとり雑誌第1号」(角川文庫)-1 1950年の続き

 

 雑誌の同じ号に一人で複数の小説ほかを掲載することがあったので、作家はいくつものペンネームをつかった。時代小説用、翻訳用など。タイトルの後ろにかっこをいれたのは、そのペンネーム。ないものは「都筑道夫」名義。

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夜鳴鳥 ・・・ 偏屈な画家国重は、江戸をにぎわす大泥棒の夜鳴鳥の絵を頼まれた。隣家の浪蔵にモデルになってもらったがどうにも気に入らない。夜鳴鳥が忍び込むという旗本屋敷に忍び込んで、泥棒が来るのを待つ。江戸の絵師や草紙作家に興味を持つ端緒か。

幽霊心中 ・・・ その旗本を継ぐのは次男。なんとなれば長男が身体に問題のある偏屈ものだったため。長男は次男を読んで、舶来の赤い酒を飲ませる。苦しみのうちに、次男の体は見えなくなっていく。21世紀にはふさわしくない話。

桜姫曙草紙 ・・・ 講談ダイジェスト。今は昔、丹波の国に鷲尾という家があった。そこに生まれた美しい桜姫。花見で外に出たところから話が転がる。鷲尾の家に復讐を誓う蝦蟇丸、桜姫の美貌にひかれる破戒僧・清玄、桜姫の兄・義基と恋焦がれる花魁「幻」。義母の野分と桜姫が一目ぼれした伴伴雄。蝦蟇丸が動き、清玄が苦しむごとに、桜姫の運命は変転し、なんどもさらわれては脱出し、肌をさらしては唇を求める。ついには前世の因果が桜姫に集中して、二人の桜姫が現れるに至る。万事受け身の桜姫こそ中世の悲恋の象徴となったのである。桜姫伝説はややこしくて一度では頭に入らないが、このダイジェストはすんなり記憶に残る。

素晴らしき侵入者 ・・・ もうすぐ初演の犯罪劇で主演の俳優が苦慮している。バーで愚痴ったその夜、俳優の家に泥棒が入ってきた。そいつの苦痛や不安こそが俳優の求めていたもの。一皮むけた俳優は大絶賛を浴びた。バーに始まり、バーで終わる小粋なストーリー。

地獄屋敷 ・・・ 都筑道夫「変幻黄金鬼」(時代小説文庫)に収録。

裏庭の死骸(鶴川匡介) ・・・ さびれた別荘地のただ一軒のバー。そこに来た男が「妻を殺してきた」という。聞いていた警官が庭を掘ったが死骸は出てこない。何が起きたのか・・・。ショートショートのない時代の小話。

朱雀門の妖賊 ・・・ 盗賊・交野(かたの)の七郎が朱雀門で女を助けると、そのあと面をつけた賊に仕事を邪魔される。待ち伏せをして、面の賊のあとをつけた。平安期の京都を舞台にしたのは珍しい。

賽ころ観世音 ・・・ いかさま賽を振らせたら右に出る者はいないという渡世の男がばくちをきっぱりやめたわけ。

 

 うまいなあ、1950年付近の作品で作者も20歳越えたばかりというのに、ものをよく知っていて、そのうえ時代、伝奇、犯罪サスペンス、バクチなどのサブジャンルごとに文体を使い分けていて、さらに物語に過不足のないしっかりした構成を整えている。この年で小説作法を身に着けているのに驚愕することになる。習作臭さがどこにも見当たらないのがすばらしい。