odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

都筑道夫「三重露出」(光文社文庫)-1

 若い時に海兵隊員で硫黄島の戦闘に参加していたサミュエル・ライアン。ニンジュツに興味があって日本に修行にきていた(!)。父の友人という老人から、ニンジュツのマキモノが盗難にあったので、おまえ調べてみないか、どうせ暇だろうと手付金をもらう。イガ忍者の末裔の老人はその後殺され、マキモノは行方不明に。持っているのはフェルナンド・ロペスという男らしい。彼は沖縄の米軍基地の秘密情報を持ち出してきていて、ニホンに来て売り込みを図っているらしい。マキモノがどうやらそれで、サムが追いかけると、ニホンのニンジュツィストの軍団ト、ナガドス=グミなるやくざもマキモノを狙っている。ひとつの章ごとにサムは窮地に陥り、美女に助けられたリ、自力で解決したりと危機一髪を乗り越えていく。だれも信じられない状況のなか、ヨリコ=サワノウチという美女だけがサムの味方。ロペスも殺されたが、どうやらマキモノほかの文書はイズのシンミリ城にあるらしい。拉致されたヨリコもそこにいるらしい。一時休戦したクノイチのひとりといっしょに、伊豆半島にあるシンミリ城にアタックをしかける。

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 S・B・クランストンというアメリカの作家が書いた小説の翻訳(とされる)。彼はどうやら日本にきたことはないらしく、1963年という時代では英語で紹介する参考書もまずない。そこで空想で細部を補うことになるが、どうしても実在とは合わない描写をしてしまう。ここではニンジュツが存在し、暗殺者の集団として今(1963年)も活動しているとされること。そのうえニンジュツィストはニンポーと称してフィクションのなかにしかありえない技を駆使し、性技も得意とされている。サムもナガドス=クミも拳銃にライフルにその他種々の武器を携え、いたるところでぶっぱなす。
 物騒この上ない舞台ではあるが、このころを思い出せば、マイク・ハマーに007のアクション小説、スパイ小説が輸入され、大藪春彦のような専門作家もいたのだった。そのうえ日活その他の映画会社も、日本を舞台に拳銃を所持できるアクション映画を大量に作って、たくさんの観客を集めていた。そのような流れに載っているものとしてみれば、それほど突拍子もないものではない。むしろこのブームから少し遅れて来たものといえる。(山田風太郎の忍術小説のパロディでもあるそうな。山風はほとんど読んでいないので気づきませんでした。)
 特徴的なのは、日本の地名や習俗などをむりやり英語に表現しているのをそのまま翻訳したところ。ジュード―・ユニフォームとかタタミ・マットとか。一読ではわからないところを説明するために本文に注を入れている。翻訳ものらしい体裁にする細心の注意を払っている。これらの文体の練習はのちの「なめくじ長屋」「キリオン・スレイ」「ものぐさ太郎」などでより発展して書かれている。パロディ、パスティーシュとして優秀。

 

<参考エントリー>
2019/11/08 山口雅也「日本殺人事件」(角川文庫) 1994年
2019/11/07 山口雅也「続・日本殺人事件」(創元推理文庫) 1997年

 

    

 

 ほかに収録されたパロディものは以下。
カジノ・コワイアル ・・・ 都筑道夫「フォークロスコープ日本」(集英社文庫) 
ジェイムズ・ホンドの大冒険 ・・・ スパイ小説を読みすぎた本堂淳一くんの大冒険。
銀座の児雷也 ・・・ 都筑道夫「蓋のとれたビックリ箱」(集英社文庫)
ポアロもどき ・・・ 都筑道夫「名探偵もどき」(文春文庫)
半七もどき ・・・ 都筑道夫「捕物帳もどき」(文春文庫)

 

2021/07/28 都筑道夫「三重露出」(光文社文庫)-2 1964年に続く

 

<参考エントリー> WW2体験者が探偵になるフィクション。

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