odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-1

 本書の概要

『統治二論』(とうちにろん、Two Treatises of Government)は、1689年にイギリスの政治学ジョン・ロックによって著された二篇の論文から成る政治哲学書である。『統治論二篇』『市民政府論』『市民政府二論』とも呼ばれる。アメリカ独立宣言、フランス人権宣言、および古典的自由主義の思想に大きな影響を与えた。

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 加藤節訳の岩波文庫新訳は全訳だが、鵜飼信成訳の古い岩波文庫(今回読んだ本)と光文社古典新訳文庫は後半のみ。

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 内容は政治哲学の古典。素人である俺がサマリーを作っても間違いだらけになりそうなので(くわえて人権の範囲がこの300年で拡張したので、ロックの議論に納得できないところが多々あったので)やらないことにする。専門家による解説が多数あると思うので、ロックの考えを知りたい人はそちらを読みましょう。

 なので、以下は俺の妄想に基づくメモ。
・具体的な事例であげられるのは、聖書と「インディアン(ママ)」。アメリカの入植は17世紀初頭とされているので、後半にはずいぶん情報がイギリスに入ってきていたと見える。植民地統治に必要だった。

・まず驚くのは、ロックの考えでは理性とか魂が身体を所有していて、身体をどう処分するかは魂の専権事項であるという考え。そこから自由と平等、共同体、協同体、国家へと論を進めていくところは圧巻。また奴隷はダメであるとされる。他人の身体の処分を別の他人が決してはいけないから(とはいえこのすぐ後の世紀ではイギリスは奴隷貿易をおこなったのであって、ロックらヨーロッパ人の考える人間はとても狭かった)。アジアでは魂と身体は不即不離という考えが強いので、身体を所有するところまで至ることがない(なので葬儀の在り方から臓器移植などのバイオエシックスまで東西の考えの違いは大きい)。

・自然状態においては人間は自由で平等であるとされる。自然状態は絶対的支配者や国家のない社会であると考えるのがよい。「自然」に引きずられて原始社会や無文字社会などを想定しないこと。ヨーロッパではかつてあったことのない状態なのだ。かろうじて近いのは、アメリカの植民地開拓時代。そこでは人間の移動に国家が追い付かず、国家の法はあっても執行官を派遣することができない。そこではロックの自然状態に近い状態があった。

・労働は自然物に対する所有権の宣言とされる(ただし必要な分だけ。消費しきれないほどの過剰な所有は認められない)。自然と土地は無価値な素材を提供するだけで、労働によって価値を与えることで所有が正当化される。マルクスの労働価値説に近い。一方で、自然の搾取や破壊は考慮されない。すなわち、自然は魂の所有する身体と同様に、魂がその処分を決することができるから。この自然観もアジアとは一致しないはず(なおここでの「自然」と「自然状態の自然」は別物なので、注意しないといけない)。

・最初の社会は夫と妻(なぜそうかの説明は聖書に依拠する。ロックの議論で物事の起源はたいてい聖書で説明される)。複数の夫と妻のペアがいると、利害の衝突が起きて、動物的闘争が起きてしまう。そこで彼らは一部の権利を放棄して協同体に調停をゆだねる。とはいえすべての権利を放棄したのではない。放棄の代わりに協同体に参加することで残った権利を執行することができる。社会参加が個人と社会で交わした契約の証なのである。協同体が大きくなると、政府機能が必要になり国家が生まれる。政府機能を効率化・公正化する中で、ひとりに権力を集中することが求められ、絶対君主制に至る(これが国家の完成形態)。ここまでの説明は、国家の共同体起源説であり、エンゲルスの「家族・国家・私有財産の起源」、吉本隆明の「共同幻想論」などのもと。
(最初の国家はそうだったかもしれないが、ひとたび国家ができると、周辺や外は対抗上すでにできた国家を模して新たな国家が生まれる。内的ではなく外からの力で生まれるという説明の方が俺にはしっくりくる。なお、最初の国家は宗教集団から生まれたという説もある。この説では、国家が家族や共同体の外にあり生産活動を行わない集団から生まれることになる。国家の機能には、言語・暦・度量衡の統一、法の整備、中央集権、官僚制などがあるが、それらは出自と言語を異にする集団において要求された。辺境にいる原始部族はこのような国家を作らないが、ロックの考える資源や富の蓄積は行われている。これらを見ると、この宗教集団国家起源説の方が説明可能なところが多い。たぶんエジプトやメソポタミア、インドはそうだったのではないかと妄想。中国の古代文明がどうだったかはわからない。)

 

      

 

2021/12/20 ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-2 1689年
2021/12/17 ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-3 1689年