2021/12/21 ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-1 1689年の続き
ロック「市民政府論」はパブリックドメインなので、英語の原文はネットに公開されている。たとえば、リンク先のPDF。下記で原文の単語をあたるときの参考にした。
Two Treatises of Government, John Locke
https://www.yorku.ca/comninel/courses/3025pdf/Locke.pdf
・所有したものは時間が経過すると価値を減じてしまう。それでは無駄なので、他人と交換する。通常の労働生産物では同様に価値を減ずるので、永続的に保存可能で価値が減じない貨幣が要求された。貨幣ができることで、所有を蓄積できるようになり、富を増やす欲望が生まれた。貨幣は共同体の中で生まれたという説明。俺としては、貨幣は共同体の中での交換で生まれたのではなく、物の価値体系に差異がある共同体と共同体の交易において生まれたという説明の方がしっくりくる。ロックの時代は貨幣経済ではあっても、資本主義は未発達であるので、経済の説明はない。そこは数十年後のアダム・スミス「国富論」を待たないといけない。物足りないが我慢、我慢。
・国家と個人の関係は社会契約で説明される。でも、そのことを書いている第8章「政治社会について」を読んだ時の印象は異なる。個人が契約を結ぶのは「community」。この政治社会をつくるにあたって、社会が必要な権力を個人は譲渡する。これは一方的な関係ではなくて、社会は代わりに個人に対する義務をもつ。個人と社会で相互契約な協定や協約が成立するのだ。だから政治社会において個人は自由で平等に扱われ、communityに参加して公的自由を楽しむことができる。で、このような自由と平等は国家の中では起こらない。なので、俺は社会契約は個人と協同体(communityの訳語はこちらのほうが含意を表している)の間で結ばれ、国家とではない。とても似ているが国家と個人の関係は国家の権力が強くて、個人を抑圧できるように働くのだ。俺の妄想では国家は協同体の外にあって、協同体のように装いながら権力を行使するのだ。(とはいえ、アメリカのように個人-協同体-国家の関係が憲法に明記されているところでは、このようではないかもしれない。アーレントの説明を借りれば、憲法をつくる・社会のシステムを作ることに個人が参加できたという記憶が個人と協同体-国家をシームレスにつないでいる。一方、日本ではこのようなcommunityが存在したことはおそらくなくて、いまだに体験したことのないイマジナリーな有り方だと思う。なにしろ律令制のころにはすでに権力が全土を捕捉していて権力が届かないところはなかったし、既存の村や名は国家の影響を受けて、組織内に権力のヒエラルキーがあった。構成員が自由で平等というシステムはこの国ではきわめて存続困難で、たぶんなかったと俺は妄想している。)
(ロックは、国家ができると国家の起源を探ろうとするが起源の記憶は失われてわからなくなっているという(P104)。ここは強く同意。ロックは夫-妻の関係から国家の起源を説明するのだが、その説明はやはり「幻想」と言わざるを得ない。)
・政治社会を構成するとき、各人は一部の権利を社会に譲渡する。それは、1.財産権を保障する(ための立法権)、2.公正な裁判、3.確定した罪を執行する司法の3つ。立法権が最高権力。これらの権力は公共の福祉(と個人の権利の保護、権限の制限)のためにだけ使われる。執行権をしばるのは法。それを執行者だけに求めると専制に容易に転化するので、一部の権利を譲渡した各人の監視と立法への参加と関与が必要だろう。
(ロックは国家をnationやstateではなく、commonwealthとしている。これは独立したcommunityの集まり。すなわち、公的自由@アーレントを楽しむ市民たちの集まりの集合として考えられる。なのでロックを考えるときに、社会契約を結んで権利の一部を譲渡したことだけを取り出すのは不当。その代りにcommunityに参加して自由と権利を行使する政治的活動をすることが重要なのだ。その活動があることが執行権を行使する代表を監視し、権限を制限する担保になっている。ロックの考えを敷衍すれば、国家commonwealthを構成するものは民族や宗教に縛られる必要はない。国家の理念などに賛成し、参加・関与する意思を持つものは誰でも国家の構成員になれる。これはのちのアメリカの共和主義につながる。あいにくロックの考えでは「誰」「構成員」は限定的。制限を取り外そうという活動はようやく21世紀になってから、おもにEUやカナダ、ニュージーランドなどで起きてきた。)
commonwealthの解説
ジョン・ロック「市民政府論」→ https://amzn.to/3MZSjId https://amzn.to/47MLx28
ジャン・ジャック・ルソー「社会契約論」→ https://amzn.to/3BgBeXG https://amzn.to/3Bqlf9O https://amzn.to/4gKqy3O
2021/12/17 ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-3 1689年に続く
(追記 「協同」はファシズムが提唱した言葉であるとのこと。)
「協同」は大政翼賛会の理論的支柱として近衛文麿の政策集団昭和研究会が提言した「協同主義」が語源でゼロ年代以降の官僚用語でもある「協働」と同じ出自なので使い方に注意が必要。
田村さんの揚げ足を取るつもりはないが「協同」は大政翼賛会の理論的支柱として近衛文麿の政策集団昭和研究会が提言した「協同主義」が語源でゼロ年代以降の官僚用語でもある「協働」と同じ出自なので使い方に注意が必要。ちなみに資料版元は花森安治「暮しの手帖」の原型となる翼賛婦人雑誌刊行元。 https://t.co/JhkYeABg5f pic.twitter.com/HCtKr11smg
— 大塚八坂堂・西川聖蘭作画「東京オルタナティブ」『ヤングA』『コミックウォーカー』連載中 (@MiraiMangaLabo) 2021年1月1日