2021/12/21 ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-1 1689年
2021/12/20 ジョン・ロック「市民政府論」(岩波文庫)-2 1689年の続き
・ ロックは、絶対主義王国や専制は市民社会の一種ではないという。その理由は、これらの国家は構成員の財産権(くどいがロックの考えでは身体も財産)を保護しないから。基本的権利である各人の財産権を保護しない、公共の福祉を顧みない政治権力には正当性はない。なので、簒奪や専制はだめ。不正不法な権力に対して、力で抵抗する権利を各人はもっている。
・抵抗権を行使した結果、政府が解体されることがあるが、社会が解体されることではない。
(日本では起きたことはないが、たいていの国は専制や簒奪に対して民衆の抗議が起きて、政権が倒れる経験をもっている。時に暴力行使が最小限に抑制されて、政権と批判する市民勢力の話し合いで権力が譲渡される場合もある。)
<参考エントリー>
加茂利男/大西仁/石田徹/伊藤恭彦「現代政治学 新版」(有斐閣アルマ)-1
「現代政治学 新版」では民主化に至る過程を「国内の政治エリートが主導する改革、反対勢力が政府を崩壊させる転覆、政府と反対勢力が共同する転換」にわけているが、ロックの「市民政府論」第19章「政府の解体について」はまさにこの3種類の説明。
抵抗権の行使と反乱の区別がつかない時がありそう。判断基準は各人の財産権を保護したか、公共の福祉を目的にするかなどにあるのだろうが、進行中の案件では判断できないことがある。事後的に評価することになる。ときに抵抗権の行使で政府が解体したあとに、専制に転化する事例がある。フランス革命が端緒で、20世紀の革命でしばしば見られた。
(トリビア。 鵜飼訳では225で「革命」の訳語を使う。対応する語句は「revolution」。アーレント「革命について」によると、革命revolutionは周期的合法則的な回転運動を意味する天文学の用語。政治で使われるようになったのは1660年イギリスでクロムウェルの内戦のあと君主制が復古したとき。現在の意味になったのは18世紀のアメリカとフランスの革命以降とのこと。
2021/11/16 ハンナ・アーレント「革命について」(ちくま学芸文庫)-第1章革命の意味 1963年
・国家の機能には執行権とは別に外交・軍事がある。ロックの説明では、社会契約で譲渡した権利ではないのに、なぜ国家にあるのか不明。にもかかわらず、国家間は自然状態なので、各法人(といってよいか?)の財産権を保護するには、利害当事者の間で決着をつけるしかない。ロックの時代には超国家的組織を想像する人はいないようだ。そうすると、財産権を保護する「自衛」のために戦争を起こし他国家を征服することがある。ロックはそれはだめだという。これも財産権からの説明できる。政治社会の構成員が各人の財産権を侵害してはならないように、国家の征服は被征服者の財産権の侵害にあたる。それに征服者は専制的。これらをみるに、戦争は不正の力の行使にあたる。
たぶん正統的な読み方とは別の読み取りをしたはず。とくに「自然状態」はイマジナリーであるとか、社会契約は同時に政治社会への参加・関与が不可欠であるとか、国家の起源と発展もイマジナリーでロックの考えたようには起こらなかったとするところとか。たぶん直前に読んだアーレントの「革命について」に引きずられて、ロックの中に共和主義を見出そうというバイアスがあったのだろう。ともあれ、今の俺の読み方はこう。
日本では村や名(みょう)などの政治社会は律令制のころから政府権力下に置かれて共和や自治を実行することがなかった。明治維新で武士のクーデターに触発された農民・町民が自由民権運動をおこしたとき、武士勢力の系譜にある明治政府は徹底的に弾圧した。なので、日本に住む人が抵抗権を行使して成功したことはない。権力の監視は生活の隅々まで行き届いているので、日本に住む人は委縮している。そうではない、各人の財産権(のみならず人権全般)を保護するよう政府に要求する事は正当である、政府の不正不当は糾弾して正されるべきである。それらを思い返す本としてロックの「市民政府論」は使える(事例が古すぎるところは素っ飛ばしてよい)。
もちろん抵抗権を行使するのはしんどいことで、社会や経済の停滞をもたらしかねないので、できればないに越したことはない。それは現状を受け入れて諦めることではない。ロックの市民社会のように、communityに参加し関与し、政府を監視し、要求を普段に突き付けることだ。そういう点で、本書は希望の書。
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